岩手・宮城・福島の産業復興事例集30 2019-2020 東日本大震災から9年~持続可能な未来のために
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ノ国屋渋谷スクランブルスクエア店などでの販売も始まった。その結果、直接販売・直接取引の割合は、東日本大震災前の1割弱から、今では2割近い水準にまで伸びてきているという。価格競争に巻き込まれない、利益率の高い商品の比率が高まることは、経営の安定に大きく寄与している。新商品の開発という「売る物の変革」と、直販・直接取引の拡大という「売り方の変革」を両輪にして、菅野漬物食品は、新たな成長軌道に乗りつつある。しかし、その一方で、課題も多い。その一つが、人材の育成。福島県内の人手不足は深刻で、「今後、パート従業員が確保できなくなるかもしれない」(岩井氏)状況にある。このため、業務の省力化・効率化が急務になっていて、外部の専門家を講師に招き社内教育に力を入れている。その効果は徐々に表れていて、社員の意識も変わり始めているという。もう一つの大きな課題が、輸出だ。菅野漬物食品は東南アジア・米国・欧州への輸出を視野に入れているが、その実現には、①賞味期間を現在の90日から180日にする②生産工場をHハサップACCP対応にする――ことが必要になってくる。現在は、福島県産品の輸入規制が解除になる日を待ちながら、①と②の問題解決に向けて、取り組みを行っているところだ。今、社長が掲げる目標は大きく、「乳酸発酵キュウリで日本一を目指す」ことだ。そこには、漬物という食文化を守っていくという決意のほかに、高い目標を設定して、社員の挑戦を引き出そうとする狙いが込められている。そして、目標に向かって挑戦することがいかに大切かは、新商品の開発という攻めの経営で苦境を乗り越えてきたこの9年間の道程が、如実に物語っている。高い目標設定のもと社員の挑戦を引き出す1「香の蔵本店」の外観2「相馬野馬追」で使われていた甲冑などを展示する、併設の甲冑館で語る岩井氏3天井の高い店内には定番商品から新商品まで所狭しと並ぶ4店内のテーブルでは商品の試食を楽しめる5人気商品「クリームチーズのみそ漬」は味もさまざま6ワインのおつまみに「クリームチーズのみそ漬」のカプレーゼを提案するなど、蔵醍醐シリーズを使った多様なレシピを紹介している7各店舗に届く「お客様の声」は工場内に張り出し、製品開発の参考にしている5476HACCP食品を製造する際の安全を確保するための世界基準の衛生管理手法のことで、12の手順が定められている。HACCPの認証を得ることは、企業・商品の国際的信用度を高めることにつながる。08復興五輪新分野/新市場/海外進出観光振興/地域交流拡大事業承継被災地での再生・創業/被災地への進出新商品開発の決断が士気を高めた中小企業は、対象市場は小さくてもほかに無い商品を作れば選ばれ、価格競争も避けられる、とされます。しかし言うは易く、実行は困難。背水の場面における果敢な決断は高く評価されるべきです。成功のポイント歴史あるのれんをめくり発酵食の可能性を磨いて多くの会社が苦手とする販路開拓を恐れない姿勢が頼もしい。健康重視の時代に、発酵系食品は注目のアイテムです。長年の技術と店舗を生かし、今までにない発酵食品を生み出していってください。期待するポイント監修委員によるコメントと評価弓削 徹氏監修委員51

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