岩手・宮城・福島の産業復興事例集30 2019-2020 東日本大震災から9年~持続可能な未来のために
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後の12月、「クリームチーズのみそ漬」を香の蔵だけで販売を開始した。すると、この新商品が予想以上の大ヒット。「発売してすぐに、ガッ!と、すごい勢いで売れましたね」(岩井氏)。しかも、①従来の商品に比べ若い世代の客が買い求めた②ほかにはない商品なので価格競争に巻き込まれない――という点で、経営戦略上も重要な商品となった。菅野漬物食品は、「クリームチーズのみそ漬」と同じ方向性の商品の開発を続けた。伝統的な漬物の枠にとらわれないそれらの商品は「蔵醍醐シリーズ」と名付けられ、毎年、アイテム数を増やしていった。蔵醍醐シリーズに込めた狙いを、岩井氏は次のように話す。「従来の漬物はどんどん食べられなくなっていますが、食生活の変化は仕方のないことです。『昔の食生活に戻りましょう』と言うつもりはありません。変化に合わせた漬物を、こちらから提案しないといけないんです。『保存料や着色料、化学調味料を使わない、食べて感動してもらえる新しい漬物』を目指したのが、蔵醍醐シリーズです。このシリーズで新しい需要、新しいお客さまを開拓していこうと、継続的な商品開発を進めています」。蔵醍醐シリーズは、従来の漬物に比べ高価格帯の商品で、問屋・商社・大手スーパーの流通に乗せるには不向きの商品だ。その蔵醍醐シリーズの販売に力を入れることは、これまでの事業モデルを軌道修正するということであり、販売面のリスクを取るという意味を持つ。しかし、社長の指示は明快だった。「リスクを取ってでも、直販を増やしていこう!」。社長の方針の下、香の蔵は、エスパル福島、エスパル仙台に出店した。さらに、常磐道のサービスエリア、道の駅にも販売コーナーを確保したほか、百貨店・高級スーパーとの直接取引も開始した。販売先の新規開拓の上で追い風となったのが、「クリームチーズのみそ漬」の「JR東日本おみやげグランプリ2018 家族に贈りたいおみやげ賞」受賞だ。この受賞で商品の知名度が格段に向上し、JR仙台駅構内の土産物店や北野エース、紀リスクを取ってでも直販を増やそうと取り組んだキュウリのキムチ「野馬追漬」。相馬の伝統的な祭り「相馬野馬追」をイメージしているみそで漬けたクリームチーズ以前にもクリームチーズを扱ったことがあり、クリームチーズとみその相性の良さは、製造責任者も開発責任者も知っていた。奇抜な組み合わせだが、ヒットする予感はあったという。香の蔵 エスパル福島店・仙台店エスパルは駅直結の大型商業施設で、多種・多様な客が来店する。この両店舗はアンテナショップとしての役割も果たしていて、客の声は、毎日、報告が上がり、社内で共有している。福島23150

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