岩手・宮城・福島の産業復興事例集30 2019-2020 東日本大震災から9年~持続可能な未来のために
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株式会社菅野漬物食品は、乳酸発酵させたキュウリ漬けを中心に漬物を製造、販売している。創業は1940年だが、それ以前から代々、南相馬で商いをしていて、かつてかごに卵を入れ売り歩いていたことから、地元では今でも「玉子屋さん」と呼ばれているという。1981年に発売し大ヒットした「相馬きゅうり漬」を筆頭にロングセラー商品を多くそろえ、経営は順調だった。1994年には、本社近くの国道6号線沿いに販売店「みそ漬処 香の蔵」をオープンさせた。「香の蔵」統括マネージャー、岩井哲也氏は、この店舗について、次のように話す。「近くにコンビニも無いような所なので、『ドライバーさんにお茶でも飲みながら休憩してもらおう』というコンセプトで出したお店です。この辺の人は、茶飲み話のときのお茶請けって、たいてい漬物だったりするんですよね」。地域に密着し、ホスピタリティー豊かなこの店は、菅野漬物食品の姿勢を体現しているのだ。2011年3月11日、東日本大震災発生。幸い、社員は全員無事で、本社・工場・店舗の建物被害も一部損壊にとどまったため、直後の数日間は出社して片付けを行う社員もいた。しかし福島第一原子力発電所の事故直後の混乱の中で情報も錯綜し、3月14日には社員の避難を優先して休業を決めた。福島第一原子力発電所から南相馬市鹿島区まで、32㎞。結局、避難指示は出されず、ほとんどの社員が3月24日に再集合した。そして、4月4日、営業を再開。――とはいうものの、休業の間にスーパーの棚は他社の商品に取られ、福島第一原子力発電所の事故の風評により、福島県産品の取り扱いを控える問屋、小売店も少なくなかった。「目の前の国道を走る車は、自衛隊か警察、原子力発電所の事故関係の車両ばかり」(岩井氏)という状況で、香の蔵の売り上げの回復は見通せない。さらに、家族を避難させるため相馬を離れる人もいて、社員の1割が辞めていった。社内の士気は下がるばかり。そうした中、社長が社員に号令をかける。「新商品を出そう!」。新商品を考える時間はたっぷりあった。「ほかには無い、食べて感動される商品を開発しよう」を合言葉に話し合いを重ね、「クリームチーズをみそで漬けるのは面白いかもしれないな」 「開発を進めてみっか!」ということになった。すぐに試作に入り、被災から9カ月ロングセラー商品が多く経営は順調だった社長が社員に号令を出した「新商品を出そう!」「相馬きゅうり漬」初代社長の菅野菊雄氏が、「キュウリは乳酸発酵させなければおいしくない」との信念から、トキワキュウリという品種のキュウリを極限まで乳酸発酵させた漬物。現在でも主力商品の一つ。茶飲み話のときのお茶請け相馬地方では、白ご飯のお供としてだけでなく、お茶請けやお酒のアテとしても、漬物が欠かせない。贈り物にもよく使われ、お歳暮用商品の生産時期が年間で最も忙しい時期になる。08復興五輪新分野/新市場/海外進出観光振興/地域交流拡大事業承継被災地での再生・創業/被災地への進出2030年復興への歩み[「蔵醍醐シリーズ」売上比率(%)]※4〜翌3月●「あん肝のみそ漬」発売2013年●「北海道クリームチーズのみそ漬」発売2014年●「合鴨のみそ漬」発売2015年●「浜めし しらす生姜」発売●2月エスパル仙台店を出店2016年●「ブルーチーズのみそ漬」発売2017年16.2●「黒胡椒クリームチーズのみそ漬」発売●「JR東日本おみやげグランプリ2018」 部門賞受賞2018年20(見込み)●9月「ハーブソルト クリームチーズのみそ漬」発売●12月「ガラムマサラ クリームチーズのみそ漬」発売2019年2011年●4月香の蔵が営業を再開●12月「クリームチーズのみそ漬」発売2012年●「クリームチーズの八丁みそ漬」発売●6月エスパル福島店を出店122008416[SDGs]2030年に向けて食生活の変化に合わせた新しい漬物を提供することで、消費者に新たな漬物の楽しみ方を提案して、地域で愛される漬物文化を守っていく。漬物の新しい食べ方を提案し地域に根付いた食文化を守る【目指していくゴール】グループ補助金13.18.07.94.52.11.80.249

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