岩手・宮城・福島の産業復興事例集30 2019-2020 東日本大震災から9年~持続可能な未来のために
47/145

“見える化”し、エリア内のエネルギー需給バランスを最適化する取り組みも行われ、ITの知見が必要な場面も多い。お互いの長所を生かした官民連携が進んでいるのだ。災害に強いまちづくりを行政と民間企業が進めていることについて、町民の反応はどのようなものだろうか。小野氏は「駅周辺だけの事業なので、すべての町民が恩恵を受けているわけではありません。そのため町民の理解がどこまで得られているかは未知数です」と正直に明かす。しかし2019年10月、駅前周辺のまちづくり事業の意義、成果が町民に知れ渡る出来事が起きた。関東や東北に甚大な被害をもたらした台風19号だ。新地町全体が断水になり、町は温泉施設のつるしの湯を町民に無料開放。同じく断水被害に見舞われた、隣接する宮城県丸森町の町民も無料で利用できるようにして、多いときで1日に1,500人近くが訪れたという。「まさか、こんなきっかけでまちづくり事業を知ってもらうことになるとは思いませんでした。今後は違った形でも町民にPRできるように考えていきます」(黒沢氏)。まだ着工が進んでいない農業生産施設についても、運営する民間業者はすでに決定している。そこでは野菜の加工のほか、エネルギーセンターからの熱を利用した農業用ハウスでパパイヤ、マンゴー、アボカドといった南国のフルーツも育てていく計画もあり、新地町の新しい農産物としての期待が高まる。「進出企業はハウス栽培だけでなく露地栽培も行いたいと考えているそうなので、雇用促進にもつながっていくと思います。エネルギーセンターの排ガスから取り出したCO₂を農地に供給して光合成を促し収量増を図ると共に、町全体のCO₂排出抑制にもつながると考えています」(小坂氏)。自然豊かな町が東日本大震災を機に、環境産業共生型の町へと生まれ変わろうとしている。多くの被災地に勇気を与える復興例として、事業の成功に懸かる期待は大きい。残されたもう一つの課題町民の理解をどう広めるか1ガスを利用して冷暖房を行う機械2発電時に発生する排熱を、他用途に利用するコージェネレーションシステム(CGS)3左から小坂氏、新地町の黒沢氏、小野氏。新地町では、産学官連携によるサーマルグリッドエリアの創出が進められている45エネルギー供給パイプは施設内外に張り巡らされている6JR新地駅は2016年12月に新駅舎が完成し、営業を再開72019年3月に完成したフットサル場「スマイルドーム」892019年6月にオープンした温浴施設「天然温泉つるしの湯」と、隣接する「ホテルグラード新地」2019年4月、新地駅前にオープンした商業施設「観海プラザ」5769810つるしの湯隣接するホテルグラード新地と共に2019年5月に完成した日帰り温浴施設。地下採掘で湧出した天然温泉を、エネルギーセンターからの熱で加温して施設内の湯船に提供している。07復興五輪新分野/新市場/海外進出観光振興/地域交流拡大事業承継被災地での再生・創業/被災地への進出外発的なチャンスをとらえ、官民の強みを生かす大企業や政府の事業が地域に与える影響は大きいが、特長を生かし、行政と民間がそれぞれの強みを生かせる事業形態を構築。台風など押し寄せるピンチも住民の理解を得るチャンスに変えています。成功のポイントハイブリッドな社会目指し持続可能な事業をLNG基地による恩恵を町全体に広げるとともに、化石燃料からの転換を迫る世界の動きにも注視し、さまざまな産業に効率的なエネルギー利用を行う世界最先端のインダストリータウンを目指してほしいです。期待するポイント監修委員によるコメントと評価田村太郎氏監修委員47

元のページ  ../index.html#47

このブックを見る