岩手・宮城・福島の産業復興事例集30 2019-2020 東日本大震災から9年~持続可能な未来のために
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「東日本大震災をきっかけに、安定した電力供給のあり方について議論されていました。そうした中で2013年11月、相馬港4号ふ頭でのLNG基地建設計画が福島の復興にもつながるものとして、福島県、新地町、JAPEXの間で三者協定が結ばれ、計画が本格化していったのです」(小野氏)。町は2012年に環境未来都市として国に選定され、2013年3月には国立研究開発法人国立環境研究所と協定を結ぶ。福島第一原子力発電所の事故を教訓にしながら、環境に配慮したエネルギー事業にどう取り組んでいくかを考えていた時期でもあった。そんなときに、相馬港から送られる天然ガスを活用した新たなまちづくりを産学官連携で行えることになり、事業の実現が加速する。熱と電気を供給するエネルギーセンターのプラントを含めた建物は、経済産業省のスマートコミュニティ導入促進事業の助成金での建設も決定。エネルギーの供給先である駅前の「ホテルグラード新地」や「つるしの湯」も、経済産業省の津波・原子力災害被災地域雇用創出企業立地補助金を活用して建てられるなど、新地駅周辺の新しいまちづくりが本格的にスタートした。事業は順調に進み、エネルギー供給事業の開始を目前に控えた2018年2月、新地町と12の民間企業・団体が出資し、エネルギー供給事業の運営母体となる新地スマートエナジー株式会社が設立された。サーマルグリッドエリアの創出という挑戦的な試みを実現するに当たって、新しいエネルギーサービス事業を官民連携で運営するための会社が誕生したのだ。運営会社設立から約1カ月後には、相馬港LNG基地が完成し運用がスタート。2018年12月には新地スマートエナジーがエネルギー供給の指定管理者に正式決定し、2019年春の本格稼働を迎え、新地駅周辺施設へのエネルギー供給がスタートした。供給開始から半年の時点では、サーマルグリッドエリア内には未完成の施設も残されているため、全施設の完成後にも安定したエネルギー供給ができるかどうかは、課題として残る。小野氏は「まだ始まったばかりの事業なので、改善が必要なことも出てくるはず。町としても管理会社と共に、課題や問題を迅速に解決できるように努力していきたい」と話す。民間企業から出向している、新地スマートエナジー主幹の小坂卓也氏は、IT業界でさまざまな事業の立ち上げに携わってきたと言い、「新地町の復興という機会に、大きなやりがいを感じています。民間企業で培った経験を生かして事業の成功に貢献したい」と決意を語る。サーマルグリッドエリア内ではエネルギーマネジメントシステム(EMS)を使って電力の利用状況を4相馬港江戸時代に藩租米や塩の積み出し港として栄えた港。1960年に地方港湾の指定を受け再整備された。現在は商港機能に重点が置かれ、災害に強いふ頭整備や港湾機能の充実が図られている。サーマルグリッドエリアサーマルグリッドとは複数の建物が双方向で熱を融通する仕組み。新地町の場合は、新地町交流センター(観かん海かいホール)や商業施設(観海プラザ)の立地する駅周辺エリアを指す。福島231サーマルグリッドエリア官民連携で創出目指す46

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