岩手・宮城・福島の産業復興事例集30 2019-2020 東日本大震災から9年~持続可能な未来のために
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県東部、浜通り地方の最北端に位置する新地町は、東日本大震災で大きな被害を受けた。震度6強の揺れと10mを超す大津波の影響で町面積の5分の1が浸水し、630世帯の家屋が全半壊。119人の命が奪われた。町役場で被災した、新地町企画観光課主任主査兼環境未来まちづくり振興係長の黒沢知子氏は、当時を次のように思い返す。「役場に避難を求める方もいたので、その対応に追われていました。大津波警報が発令されたので海側を見ると、壁のような波が見えて海側の光景が変わっていくのが分かり、急いで皆さんを高台に誘導しました」。当時、JR新地駅は海岸からわずか500m離れた田園地帯に建ち、太平洋の大海原を望むことができるほど近かったため津波で駅舎ごと流されてしまった。駅には電車がちょうど停車中だったが、偶然乗り合わせた警察官の迅速な判断のおかげで、幸いなことに乗客の犠牲者は出なかった。福島第一原子力発電所の事故により住民が避難を強いられた期間もあったが、多くは1カ月ほどで戻ることができた。その後、新地町では浪江町や双葉町など事故現場に近い町の住民も、避難所や仮設住宅で受け入れる体制を整える。「浜通りから出たくないという人も多かったので、その受け皿として支援させていただきました」(黒沢氏)。その後、新地町に家を建てて住み始めた人もいるという。新地町の復興事業は、防災集団移転促進事業や災害公営住宅の整備といった住まいの再建事業から重点的に始められ、さらにその後は、津波で流失した新地駅周辺の市街地整備を軸とした、新しい拠点づくりが進められていた。その中で取り組まれてきたのが、スマートコミュニティー導入促進事業の「地産地消型エネルギーを核とした復興まちづくり」だ。この事業が進められるきっかけは、石油資源開発株式会社(JAPEX)が太平洋岸のエリアでLNG船の係留基地を探していたことだった。新地町企画振興課長の小野和彦氏は経緯をこう語る。町の5分の1が津波で浸水唯一の駅舎も流失エネルギーの地産地消へ新たなまちづくり計画推進石油資源開発株式会社(JAPEX)エネルギーの安定供給を目標に、国内外で石油・天然ガスの探鉱、開発、生産、および輸送、販売などを行う総合エネルギー企業。低炭素化・脱炭素化などの課題解決にも取り組んでいる。LNGメタンとエタンを主成分とする天然ガスを液化したもの。火力発電の燃料や都市ガスの原料などとして欠かせない資源で、安定供給が可能なエネルギー源として注目を集めている。07復興五輪新分野/新市場/海外進出観光振興/地域交流拡大事業承継被災地での再生・創業/被災地への進出2030年復興への歩み[電力供給量(MWh)/熱供給(MJ)]※4〜翌3月●3月新地町が国立環境研究所と協定を締結2013年●12月新地町が環境未来都市として正式選定2015年●復興まちづくり事業のスマートプランを策定●12月新しい新地駅が完成し営業再開2016年●新地駅周辺でホテルや公共施設の 建設が始まる2017年●2月「新地スマートエナジー株式会社」設立●3月相馬港に相馬LNG基地完成、運転開始2018年2011年●3月東日本大震災で町の全面積の5分の1が浸水JR新地駅の駅舎が流失2012年●5月新地町が環境未来都市計画を策定国の環境未来都市構想に提案書提出6,00010,00004,0002,0008,000[SDGs]2030年に向けて駅前周辺の全施設が整った際、いかにエネルギーを安定供給できるかが最大の課題。クリアできれば魅力あるまちづくりが見えてくる。エネルギーの安定供給と駅前エリアの発展を一番に【目指していくゴール】敷地内の地面にはエネルギー供給パイプの配置が示されている(写真のHは温水、Cは冷水、Eは電力)9,6022025年1,6038,7022021年1,4237,5392020年1,353●新地駅周辺施設へのエネルギー供給開始2019年5,8401,067電力熱※2020年1月時点の需要見込み45

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