岩手・宮城・福島の産業復興事例集30 2019-2020 東日本大震災から9年~持続可能な未来のために
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も自社で責任を持ってやらなければならない」と考え、鶏糞バイオマス発電事業に自ら乗り出す道を選択した。バイオマス発電所は、生産農場所在地のほぼ中心に位置する軽かる米まい町に建設することに決まった。発電規模6,250kW/h、発電所内の使用電力を除いた送電規模は、約1万世帯分の電力に相当する4,800kW/h。九州以外では初の、食鳥業界単独企業としては最大規模の鶏糞発電プラントだ。2014年9月に造成工事着工、2016年5月に試運転を開始し、11月から営業運転を始めた。売電先は鶏肉の産直取引を長年行ってきた生協「パルシステム」のグループ会社で、再生可能エネルギーの普及に取り組む株式会社パルシステム電力(東京都)と、10年間の契約を結んだ。さらに、発電の際に出る鶏糞の燃焼灰はリン酸、カリウムが豊富な肥料となり、現在、その販路の拡大に努めている。バイオマス発電という新規事業への参入は、新たなリスクを背負うことになったが、それまでの鶏糞処理に比べ、はるかに高いコストパフォーマンスを実現した。こうして十文字チキンカンパニーは、地域における資源循環のサイクルを構築した。それは「チキンインテグレーション」のバージョンアップであり、岩手県のチキン産業の持続可能性を高めることにもつながる。そして、その先に地域の未来を見据え、十文字氏は次のように語っている。「チキン産業は労働人口を吸収する力の高い、価値ある産業です。ですから、人口が減っていくこの地域に人を残すためにも、経営の競争力を高め、事業を発展させていかなければなりません。やりがいと誇りを感じられるような職場をつくり、地域の未来に貢献したいと思っています」。2016年11月、1万世帯分の電力の送電を開始1孵卵場はひなの健康を維持するため、温度・湿度が徹底管理されている2専門の指導員が農場を巡回し、鶏の健康を守るため、鶏舎内の環境を指導している3処理工場でむね肉やささみ、手羽先や肝に至るまで、素材を余すところなく加工4バイオマス発電所では1日400tの鶏糞を利用しエネルギーに変えている5「養鶏産業は地域に貢献できる価値ある産業だと考えています。従業員にも自信と誇りを持って仕事に臨んでほしい」と語る十文字氏67鶏糞はカロリー(熱エネルギー)が高いうえ、鶏舎に敷かれたおがくずを含むため燃えやすく、ほかの家畜糞尿に比べ、燃料として優れている8タービンと発電機。鶏糞を燃やして発生する蒸気でタービンと発電機を回し、発電する5786岩手県のチキン産業農林水産省によると、2018年の岩手県の農業産出額の第1位がブロイラー(21.9%)、第2位が米(20.8%)。肉用若鶏の出荷羽数で岩手県は、鹿児島県、宮崎県に次ぐ全国3位。04復興五輪新分野/新市場/海外進出観光振興/地域交流拡大事業承継被災地での再生・創業/被災地への進出業務改革のタイミングとビジネス感覚の鋭さ時宜を得た設備投資と作業平準化で、生産性向上と残業ゼロをほぼ達成。また手作業が商品価値を高めることを知っていることも大きいです。これまでコストだった鶏糞処理を魅力的なビジネスに変えています。成功のポイントさらなる付加価値の追求でもっと地元に愛される企業に鶏の可能性を追求していくと、付加価値の高いサプリメント事業にも参入できるかもしれません。また子ども向けの食育や再生エネルギー事業などを通じて、地元により愛される企業に育っていって欲しいです。期待するポイント監修委員によるコメントと評価柳井雅也氏監修委員35

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