岩手・宮城・福島の産業復興事例集30 2019-2020 東日本大震災から9年~持続可能な未来のために
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設した久慈工場は、大型の鶏を加工できるラインを2ライン備えた国内初の処理工場で、1日当たりの処理羽数を6万4千羽から9万羽に伸ばした(翌2018年には10万1千羽/日まで処理能力を上げている)。新規に採用された従業員も115人に上った。この増設工場の稼働と相前後して十文字チキンカンパニーは、3カ所の生産工場すべてで加工工程の見直しに取り組んだ。機械化・省力化でコストダウンを図る業界の流れに逆行し、あえて人手をかけることで、鶏肉加工作業における歩留りの向上と品質の確保、そして雇用の拡大を優先させる方向にかじを切った。また、十文字氏は地元に経営者を増やす目的で、経営感覚が必要になる売買農家の育成にも力を入れた。勉強会や成績向上した農家の事例の共有によって、「やればできる」という空気が自然と醸成され、成績が向上していった。これらの新規投資、雇用の改革は、鶏肉業界の競争を価格競争ではなく、徹底した効率追求で勝ち抜いていこうする十文字チキンカンパニーの姿勢の表れだといえよう。十文字チキンカンパニーの「チキンインテグレーション」は、製品の出荷で完結するわけではない。鶏糞の処理も、「『人・動物・環境の健康』を考える」を理念とする同社にとって、重要な課題だ。グループ全体では、1日に400t近く、年間で12万6千tの鶏糞が発生する。従前、その鶏糞は、5カ所の発酵肥料工場(コンポスト)と2カ所の炭化肥料工場で処理し、肥料・土壌改良剤・融雪剤を生産、販売してきた。しかし、そうした事業は採算が取れるものではなく、量的にも鶏糞全量を処理できてはいなかった。そのため、鶏糞の一部は産業廃棄物としてコストをかけて廃棄していた。そんな中、2000年代半ば、宮崎県に2つの鶏糞を使ったバイオマス発電所が、営業運転を始めた。この事例を参考に、十文字チキンカンパニーでも鶏糞バイオマス発電の研究をスタートしたが、当時は電力の買取価格が低く、事業化を断念せざるを得なかった。こうした状況を一変させたのが、2011年8月の「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」の成立だった。再生可能エネルギーの固定価格買取制度の導入が決まり、“電力源”としての鶏糞に注目が集まる。十文字チキンカンパニーには、複数の鶏糞買い取りのオファーが届いたという。しかし、十文字氏は「鶏糞の処理に責任を持つには、発電固定価格買取制度導入で鶏糞発電事業参入を決断電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法再生可能エネルギーの普及を促すため、生産された電力を電力会社が一定の価格で一定期間買い取ることを定めた固定価格買取制度が導入された。鶏糞バイオマス発電鶏糞を燃やすことで発生する蒸気でタービンと発電機を回して発電する。発電の工程では、起動時以外は鉱物性燃料を必要とせず、エコ、省エネの観点からも効率的な発電方法といえる。岩手234134

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