岩手・宮城・福島の産業復興事例集30 2019-2020 東日本大震災から9年~持続可能な未来のために
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株式会社十文字チキンカンパニーは、生産羽数が年間5,300万羽で、全国シェア約7%、県内シェア約47%を誇る、東日本最大の鶏肉生産企業だ。久慈市・八幡平市・二戸市に生産工場、九戸村・久慈市に孵ふ卵らん場、25の種しゅ鶏けい農場と180の生産農場を持ち、グループ総従業員数は約1,700人。岩手県北地域の経済、雇用を支える中核企業の一つといえる。「『人・動物・環境の健康』を考える」を理念とし、種鶏の育成・孵卵・加工・商品出荷のすべてを自社管理の下で行っている。衛生管理の徹底、生産農場に対する専任の指導員による飼育指導、飼育データの本社一括管理、生産農場からの出荷羽数の綿密な調整など、業界で「チキンインテグレーション」と呼ばれる飼育から加工まで一貫した生産体制、品質・安全管理体制を構築し、安全で高品質な製品を生産する。主要な販売先は首都圏で、「菜さい彩さい鶏どり」などのオリジナル銘柄鶏の開発にも力を入れている。東日本大震災では、自社施設・設備に大きな被害はなかったが、餌工場の被災により餌の供給ができなくなり、360万羽が犠牲となった。代表取締役社長の十文字保雄氏は次のように話す。「損失額はおよそ15億円に上りました。一時の経営危機の状況を脱して多少の蓄えがあったので、なんとか事業を継続することができました。国からの雇用調整助成金、県の食鳥検査料の1年間免除など、行政の支援があったことも大きな助けになりましたね」。しかし、2011年は生産量が落ち込み売り上げは減少。2012年も、前年の国内生産量の減少が影響して輸入が増大したことによって市場価格が下がり、収益を圧迫した。経営が安定するのは、2013年に入ってからだった。2014年、主力の久慈工場がある久慈市から、「津波・原子力災害被災地域雇用創出企業立地補助金」を活用した久慈工場の増設の提案があった。「1978年から稼働している久慈工場は老朽化していましたが、あと10年くらいは使うつもりでいました。けれども、生産ラインの機器を作る会社などとも検討した結果、工場の古い機械を一新して生産性を上げる方がメリットが大きいと判断し、増設を決めました。地元の雇用を増やすことも、大きな意義があると考えています」(十文字氏)。総事業費約100億円をかけた増設工事は、2017年10月に完了。増東日本大震災で360万羽が犠牲になった主力の生産工場を増設し、従業員115人を新規に雇用生産農場からの出荷羽数の綿密な調整180の生産農場の鶏の生育状況を把握し、生産工場の稼働日の処理羽数が平準化するように、綿密な出荷調整を行っている。このため、生産工場の従業員は、残業する必要がほぼない。経営が安定農林水産省によると、健康志向の高まりなどから鶏肉の消費量は増加傾向で推移し、2018年の消費量は2010年に比べ20%以上も増えている。その伸びも業績回復を後押しした。04復興五輪新分野/新市場/海外進出観光振興/地域交流拡大事業承継被災地での再生・創業/被災地への進出2030年復興への歩み[出荷羽数(千羽)]※4〜翌3月48,6272012年30,00060,000020,00010,00040,00050,000[SDGs]2030年に向けて商品力、企業経営の競争力を高めることで、安定的な雇用を創出していく。そのことが、人口減少の中で、地域社会の持続可能性を高めることにつながっていく。競争力を強化して事業と地域の持続可能性を高めていく【目指していくゴール】2010年45,1072011年●3月東日本大震災で約360万羽が犠牲に●8月再生可能エネルギー特別措置法施行44,3882013年●銘柄鶏「楽鶏」の販売開始48,6422014年●九戸孵卵場、増設●9月バイオマス発電所建設、着工49,4042019年●4月「岩手県健康経営認定企業事業所」に認定●12月「いわて女性活躍認定企業等(ステップ1)」に認定55,800(見込み)2015年49,191●5月バイオマス発電所、試運転開始●11月バイオマス発電所、営業運転開始●12月久慈工場の増設工事、着工2016年49,401津波・原子力災害被災地域雇用創出企業立地補助金2018年53,0972017年●10月久慈増設工場、稼働開始50,08333

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