岩手・宮城・福島の産業復興事例集30 2019-2020 東日本大震災から9年~持続可能な未来のために
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技術責任者として栽培室を見回り、自らの目で生育状況を日々チェックする。早川氏は「固定観念が無い分、いろんな発想が出てくるので本当に助けられています」と高く評価する。業績は順調に伸び、2018年度は年商が1億4,000万円にまで向上。約20人の従業員の半数が地元出身者と、地域の雇用創出にも貢献している。LEDでの栽培に一定の成果が生まれたこともあり、現在では4つの栽培室のうち3室半にLEDを備えている。まつのなど卸売会社の協力で供給先も増えた。レストランや居酒屋を全国展開する外食企業、ベーカリーカフェの運営会社、さらには2019年4月に全面営業再開を果たした楢葉町のJヴィレッジなど多岐にわたる。「いまだに福島の野菜を敬遠する人も少なからずいます。完全閉鎖工場で作っていると伝えても、福島産であることは同じだと毛嫌いされるんです。その人たちの説得にこだわっても仕方がない。KiMiDoRiの野菜を正当に評価してくださる人を地道に増やすことが、今の一番の目標です」(早川氏)。2020年の東京オリンピック・パラリンピックをきっかけに福島県にも国内外から多くの人が訪れると予想される。早川氏も「2018年3月には、食の安全や環境保全に取り組む農場に与えられるJジェイGギャップAPという認証も取得しました。Jヴィレッジにも多くの方々に足を運んでいただき、うちのレタスを食べていただいて、福島県の野菜が安全・安心であると分かってもらえたらうれしいですね」と期待する。もちろん、課題はまだまだある。工場野菜に対する需要が増えているものの、増産対応が十分にできていないのだ。「稼働率向上のために、需要の多い時季にフル稼働できるシステムの構築に取り組んでいます。商品開発にも積極的に取り組みつつ、10年後は年商5億円程度に伸ばしたいと思っています」(早川氏)。兼子氏も「価格・便利さ・おいしさのバランスを考えながら、長く愛される使い勝手の良い商品を開発したいですね」と話してくれた。少子高齢化や人口減少など多くの課題に直面する川内村。しかしKiMiDoRiが復興のシンボルとして業績を伸ばし、明るい光が差していることは間違いない。地元雇用にも貢献高まる需要に応えていきたい1生育状況を確認する兼子氏。監視システムだけに頼らず自分の目での観察を大切にする2工場で栽培されたレタス3工場で栽培したバジルから作ったバジルペースト。評判が良く、レストランで使用する例も多い4「国内外の人にKiMiDoRiのレタスを食べてほしい」と話す代表取締役の早川氏と兼子氏56リーフレタスはJヴィレッジなどの県内各所にも出荷される7Jヴィレッジでは説明文や写真とともにKiMiDoRiのレタスが提供されている8早川氏と従業員の皆さん03復興五輪新分野/新市場/海外進出観光振興/地域交流拡大事業承継被災地での再生・創業/被災地への進出5678工業“畑”からの転身で果菜を実らせる生産量や設備の稼働調整など、工場だからこそのコストコントロールが事業を軌道に乗せました。つまり、バルブメーカーという工業畑出身の経営者ゆえ合理的な野菜生産が可能になったわけです。成功のポイント非自然な栽培が本来のおいしさを呼ぶ、逆説農業に対する気候風土は決して優しくない日本。他産業以上に高齢化という危機にも瀕する中、理系の効率的な成功事例を見せてくれました。この挑戦に習おう、と発奮する人を待ちたい思いです。期待するポイント監修委員によるコメントと評価弓削 徹氏監修委員29

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