岩手・宮城・福島の産業復興事例集30 2019-2020 東日本大震災から9年~持続可能な未来のために
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の仕方にも工夫があります」と話すのは同社山元作業所長の山口武氏。大坪氏と同じく山元町の出身で、元教員で小学校の校長も務めた人物だ。大坪氏とは同い年で古くから縁があり、義弟という関係でもある。大坪氏が芝生の生産を事業化するに当たり協力を求められた。それ以来、生産地となる山元町作業所の管理を行い、さらに大坪氏と現場をつなぐ役割を担っている。「豊田スタジアムに収めた芝生は0.76×10mといった大きなサイズで切り取って、丸めて持っていきました。いい芝だと先方からも大変喜ばれています」。小さくカットしないで、ある程度の固まりで扱うことのメリットについて、大坪氏は「剝がれない」ことを挙げる。「一巻きを大きくすると扱いが大変ですが、まず、きれいに設置できます。そして何より、500㎏もある自重のおかげで、芝の上で激しいプレーが行われても剝がれるということがありません。ピッチコンディションを一定に保てるので選手も安心して走り回れるはずです」。2012年に200㎡から始めた生産面積はどんどん増え、2019年現在は16万5,000㎡となっている。山口氏は「津波をかぶったこの地を生かすのに、芝生を育てようという社長のアイデアがすごかった。当初からそう思っていましたが、今の方がよりはっきりと感じます。私も79歳ですが、もうちょっとがんばって、この事業に貢献したい」と意気込む。事業の今後の課題について聞くと、「生産効率を上げること」と大坪氏。そのためにドローンやAIなど先端技術を使ってオートメーション化を進め、質と量の両方を上げたい考えだ。山元町と協議し、借り受ける土地の面積は今後もさらに増えていく予定。目標は「復興芝生」をもっと大量に生産し、山元町の名産にまで押し上げること。「私は人生で必要なことの多くをラグビーから学びました。最も大きいのは諦めない心。芝生を生産してみて思ったのは、自分は芝生に似ているということです。芝は踏まれても育っていくわけですが、私も踏まれて強くなってきた」と笑ってみせ、「地域復興のためにもまだまだがんばっていきますよ」と力を込める。年を重ねますます意気軒高の大坪氏。その挑戦はこれからも続いていく。芝生を山元町の名産に課題は生産効率の向上123復興芝生は広大な敷地で育成され、巻き取って収穫される4ラグビーで培った熱い闘志を内に秘める代表取締役・大坪氏の眼光は鋭い5復興芝生が登録商標として認められた登録証6沿岸に近い見晴らしのいい場所に作業所がある7大坪氏と共に復興芝生を手掛ける山口氏702復興五輪新分野/新市場/海外進出観光振興/地域交流拡大事業承継被災地での再生・創業/被災地への進出4356しっかりしたマーケティングと分かりやすいコンセプトの勝利「転んでもただでは起きぬ」をストレートに実行したビジネス。「復興芝生」のネーミングが分かりやすいこと、さらに高まる需要を見据えた展開が確実性を高める上でも寄与したと考えられます。成功のポイント品質を維持して付加価値高い産業モデルにこれまでの納入実績をテコにこれからも確実に販路を拡大し、付加価値の高い産業とすることで、若い人が憧れる仕事となり、安定的に生産を続けられるような循環が生まれることを期待しています。期待するポイント監修委員によるコメントと評価田村太郎氏監修委員25

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