岩手・宮城・福島の産業復興事例集30 2019-2020 東日本大震災から9年~持続可能な未来のために
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県なのですが、山元町で生育したものの方が納品先により近いというケースも多くありますし、ビジネス面でのチャンスもあると思っていました。『復興芝生』という名前に注目していただけたというのは、われわれにとっても実にありがたいことでした」。「復興芝生」の初出荷は2014年8月。記念の初出荷式も開いた。そのときの気持ちについて、大坪氏は「自分で大事に飼っている雌牛が子牛を産んで、その子牛を元気に育てて無事に送り出したような思いだった」と独特の表現で、実感を込めて振り返る。法人化した際の大坪氏の一つの夢は、2019年12月に完成した新国立競技場の芝生を生産したいというものだった。それは実現に至らなかったものの、復興芝生は宮城スタジアム(利府町)へ納入され、2019年10月1日~11日に張り替え作業が行われた。約7,600㎡のピッチが復興芝生に生まれ変わったのだ。「豊田スタジアム(愛知県豊田市)で使われるのもうれしかったですが、山元町で生産した芝生が宮城県内の競技会場で使われるというのは、やっぱりすごいよね」と笑みがこぼれる。その豊田スタジアムは、2019年9月から日本全国12都市を舞台に行われたラグビーワールドカップで、試合会場の一つとなった。「水はけが良く、激しいスポーツにも耐えられる」と評価されて芝生を納入。日本対サモアをはじめ3試合が行われた。大坪氏は豊田スタジアムでの初戦となったウェールズ対ジョージア戦に招待され、観戦。感涙にむせんだ。「自分たちが育てた芝生の上で世界各国の代表選手がプレーをするということが現実化した。たくさんの人々に支えられて一つの夢がかなった。いろいろな思いがない交ぜになって、涙が出たんだと思います。ラガーマンである私にとっては非常に感慨深かったです」。これまでに育てた芝生の種類は、ノシバ、ティフトン、ケンタッキーブルーグラスなど多岐にわたる。依頼者から種を預かり育てる形を取っており、東日本復興芝生生産事業が独自に作る芝生というものは無いが、芝生の品質にはすでに大きな評価を得ている。生産地は日当たりが良く、砂地のため、根がよく伸び、強く張りやすい。水は地下水をくみ上げて使っているが、程よくミネラル成分が入っているという。「津波後に除塩せずに芝を植えましたが、その塩分も芝には良かったようですし、今使っている地下水も栄養分が豊富。太陽光を遮るものがないといった環境も含め、この土地は芝生栽培にとても適しています」と解説する。「『復興芝生』は品質も高いが納入品質に大きな評価を得て宮城スタジアムにも導入納入にも一工夫し生産面積は拡大の一途1豊田スタジアム2001年6月完成、7月供用開始。席数は4万5,000席。天然芝部分は115×78m。ラグビーワールドカップでは台風19号の影響で1試合が中止となり、全3試合が行われた。宮城スタジアム2000年4月供用開始。約5万人を収容。天然芝部分は107×71m。2002年サッカーワールドカップの会場となった。2020年の東京オリンピック・パラリンピック競技会場の一つ。宮城224

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