岩手・宮城・福島の産業復興事例集30 2019-2020 東日本大震災から9年~持続可能な未来のために
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パラスポーツが持っているビジネスの可能性にもっと目を向けてほしいですね (田村)事例集を教材に使い、学生たちにディスカッションさせたいと考えています (柳井)DiscussionDiscussion柳井 地域づくりに必要なものは5つあり、そのひとつがビジョンです。ビジョン、つまり理想を語る人材が必要です。2つ目が理想に対して意思決定をすることです。これは理想を語る人が兼ねる場合もありますね。3つ目が周囲を説得するネゴシエーション。企業では社長が担うこともあれば、社員が行う場合もあります。4つ目はパッション。情熱がなければ、ビジョンもネゴシエーションも動きません。しかし、情熱だけでもどこに行くか分かりません。そして最後がアクション。行動を起こして、結果を出すことができれば、先の4つがしっかりと機能していたということだと思います。この点を確認した上で成功した事例を見ると、3つのポイントがあります。1つ目が連携です。団結化・グループ化、あるいはサプライチェーンの再生などが実施されてきました。具体的には、空き工場の紹介や、機械や船舶のシェアなどです。福島県相馬市の宿泊業の事例(松川浦観光振興グループ)では、お客さんをお互いに紹介するといったことも行われています。また、スムーズな物流や輸送のコストダウン、生産時間の短縮化、輸送のコストダウンの実現や、試験機関などと連携することによって、ほかにはない商品の生産に成功するといった成果も生まれています。2つ目は生産・製造技術の革新です。新しい用途開発などをしっかりと行っている事例がたくさんありました。3つ目が労務管理です。戸倉の場合では、カキの密植をやめたことによって労働時間が短くなり、土日が休めるようになったという効果を生み出しています。宮城県岩沼市の佐藤金属の事例では、女性従業員のライセンス取得を支援したり、労働時間に女性の子育ての時間を組み込んだりして、勤務体系にイノベーションを生んでいます。こうした労務管理に関する事例が目につきました。柳井 事例集の発信も重要になってきますね。額田 5Gになり動画の発信ができるようになると、人にフォーカスが当たるというお話が田村さんからありました。そうなると、戸倉のような例で、人が働いている姿は目玉になるというか、非常にインパクトを与えると思います。実際に、現場に行ってみようかなというきっかけにもなるので、そういう事例を事例集の中からピックアップして、上手に動画で発信することを考えることも必要になるのではないでしょうか。柳井 復興五輪観戦の国内外のお客さんや選手に対して、ホストタウンなどにおける事例をPDFで配信することで、市町村がつながっていくと思います。もうひとつは被災3県から海外に進出している企業が、おそらく200社から300社あると思います。その会社の外国の事業所に事例集を置かせてもらったり、配布してもらったりするといった方法もあると思います。そして、東北の大学には合計で3,000人近くの留学生がいるので、彼らを、例えば「語り部大使」に認定して、QRコードを入れた名刺を渡して、帰国したときに名刺を配ってもらうという方法はどうでしょう。人を媒介にして情報が世界に伝わっていくというのは、いい作戦ではないかと思いますね。広告などではなく、地道だけど確実な方法をとっていくことが重要です。留学生だけでなく、世界の大学の研究者、大学院生が被災地に来て調査・研究を行っています。そういう人たちは被災地の取り組みを必ず応援してくれると思うので、事例集の海外への展開を手伝ってもらうことを考えたいですね。田村 海外への展開を考えると、事例集を外国人が取材・執筆することも考えてもいいのではないかと思います。柳井 私は事例集を来年の教材に使うつもりでいます。事例集を使って、学生たちにディスカッションさせたいと考えています。その結果は、また皆さんにお伝えしたいと思います。■成功した地域づくりの条件とポイントとはさまざまなアイデアで事例集を国内外に発信17

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