岩手・宮城・福島の産業復興事例集30 2019-2020 東日本大震災から9年~持続可能な未来のために
16/145

収益性がありSDGsにも貢献できる形が見つかれば多くの会社が取り組めるようになると思います (弓削)高付加価値化を進めるために人を育てると、結果として働きやすさを生むという好循環につながります (額田)DiscussionDiscussion戻って事業を見直したりすることが欠かせないと思います。弓削 ビジネスマンの立場からいうと、たまたま事業がSDGsに沿っているということはあっても、中小企業が収益性を差し置いてSDGsの実現に邁進するというのはなかなか難しいと思います。収益性があって、SDGsにも貢献でき、持続もできるというようなWin-Winの形が見つかれば、ひとつの解として多くの会社が取り組めるようになると思います。柳井 額田さんには、女性の働き方についてお聞きしたいですね。額田 田村さんがお話しになった戸倉の事例も含めて、高付加価値化を進めるために人を育てると、結果として女性だけにとどまらず、多様な人の働きやすさを生むという好循環につながります。最近、研究している東京の大田区でも、労働時間を短縮することで、余った時間と生んだ利益を従業員に還元し、従業員のモチベーションをさらに高めることにつなげている企業が出てきています。その動きが地域のトップ企業だけでなく、中小のニッチトップ企業にも広まってきています。トップの企業だけでは、なかなか周りの企業に波及しないのですが、規模が小さいのに、自分たちより一歩先んじた「光る事例」というのは、周りの企業もまねしながらつい学びたくなる。そういう点で、戸倉のような例は、ピックアップして情報発信してほしいと思います。柳井 復興五輪について、皆さんはどうお考えですか。田村 パラスポーツが持っている可能性にもっと目を向けてほしいですね。例えば車椅子バスケット用の車椅子を作っているのは岐阜の会社ですが、車椅子バスケットの選手の多くは仙台にいるので、なぜ仙台で製作しないのかなと思うわけです。パラリンピックは、自動車レースでいうと、F1のようなもの。F1によってエンジンなどの性能が上がり、裾野が広がるように、パラリンピックで選手が使う義足などの性能が上がれば、一般の障害者が使う義手や義足、高齢者の補助道具なども発達します。復興五輪を産業の振興にもつなげてほしいですね。額田 復興五輪は、本来観光だけでなく産業振興にも役立つのに、東北でなかなか盛り上がりが感じられないのは、どのような理由が考えられるのでしょうか?田村 人手不足で、今までやってきたことを守るのが精一杯で、新しいチャレンジになかなか人が割けないのだと思います。それに今までは、障害者への貢献やスポーツ振興にかかわるのは、余裕のある企業が本業とは別に行うことだという思い込みが強かったのではないでしょうか。また、社会に役立つことで儲けてはいけないという雰囲気もあったと思います。そうしたものが、パラスポーツと産業振興とを分けてしまっているという印象があります。そうではなくて「本業ですよ、正当に収益を追求してもかまいませんよ」と、あまり発信していないのも影響しているかなと思います。その点で、今回取り上げている弱視の方向けの商品を開発したヤグチ電子工業は、まさに格好のいい事例で、積極的に発信すべきだと思います。額田 パラスポーツ用の商品開発において、東北が今できることは何でしょうか?田村 今回の復興五輪を勉強の機会にしてほしいですね。ゲームをよく見て、あの道具はどこで作っているのか、いくらするのかといったことに関心をもってもらい、東北で製作するためのヒントを得てほしいと思います。弓削 復興五輪については、1964年のオリンピックも、戦争からの復興五輪なんですよね。その前に流れてしまった1940年の五輪も関東大震災からの復興がテーマで、復興と五輪は親和性が高いように思いますね。田村 復興五輪では海外からさまざまな人が来日しますから、ダイバーシティを進める契機にもなります。政府も、復興五輪のレガシーのひとつにダイバーシティをあげていて、それを東北で実現できればと思います。地域や企業に対して復興五輪がもたらすもの16

元のページ  ../index.html#16

このブックを見る