岩手・宮城・福島の産業復興事例集30 2019-2020 東日本大震災から9年~持続可能な未来のために
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地域の産業を維持していく中で、しっかりと魅力を発信することが必要です (田村)もっとネーミングに工夫があれば売れるのに、という商品が多いですね (弓削)DiscussionDiscussion柳井 東日本大震災から9年がたとうとしています。2020年には復興五輪も控えています。現在の東北には何が必要でしょうか。田村 地域の産業を維持していく中で、まずはしっかりと魅力を発信していくことが必要でしょう。観光と土産だけでなく、工業製品も同じです。いいものをつくれば必ず視察に来る人がいます。そこで買ってもらい、次の注文につなげる。その循環を次のステップにしなければなりません。地域の魅力には、外から見ると違う価値がある場合があります。例えば、本土の人はやわらかいと感じる沖縄の魚も、東南アジアでは同じ魚種の北限にあたり身が締まっているそうで、最近は輸出しているそうです。オーストラリア人が多く訪れるニセコは新千歳から3時間かかりますが、日本人には遠くても彼らにすれば近い。復興五輪を機に外国人に東北を見てもらって、日本人には気づかなかった新たな魅力を発信してほしいですね。弓削 海外の人が新たな価値を見つけることがあるというのは、本当にそうですね。国内のほかの地域から来た人が魅力を見つけたという事例もあります。一方で、パッと見ただけで売れないだろうと思ってしまう商品が少なくありません。私はネーミングとパッケージで、売れるかどうかの90%は決まると思っています。地元の産品をうまく生かしているかとか、加工の技術が優れているかといったポイントもありますが、売れない商品は結局のところパッケージデザインとネーミングがダメなんです。遠くからでも目立つアイコンが入っているとか、語呂合わせやだじゃれでもいいので、もっとネーミングに工夫があれば売れるのに、という商品が多いですね。額田 昨年の事例で最も印象に残ったのが、ASC国際認証を受けた宮城県南三陸町の戸倉地区のカキの話です。本当に大事にするべき本質に立ち戻ってのイノベーションはすてきだと思います。訪れた人に日本の原点を感じさせるのが東北の良さの一つです。その魅力を観光や産業に上手につなげていくことが大切です。単純においしいものを食べてもらうだけでなく、風景や祭りなど、それが生み出されるプロセスも味わってもらい、全体を体験できるようにすると、産業の復興と観光がつながってきます。東北の日常は、外国人の目には独特な文化と映るでしょうし、日本人にとっても、忘れていた大事なものを思い出させるような風景があります。弓削 浅草の木造民家に外国人観光客が家族連れで入って、ごくごく当たり前の日本の朝食を食べるというツアーもあり、こちらも人気を集めていますね。柳井 額田さんから、食を生み出す風景というフランスのテロワールのようなお話がありましたが、マリアージュという言葉もありますね。ワインと食との関係を示すもので、東北では日本酒と食になると思います。最近では宮城県大崎市の一ノ蔵酒造が、日本酒と食とのマリアージュを積極的に発信しています。ワインから学んだ知識の展開が東北で始まっていると思います。田村 三陸は海産物が豊かですが、6次化での伸びしろがあります。雇用を生むためにも、加工・飲食業を育てる必要がありますね。柳井 養殖や栽培漁業も課題があり、盛んな九州や四国とは、不漁時に差が出ます。田村 これまでの東北の復興は、日本国内のマーケットでどれだけ挽回するかという話でしたが、これからは、海外にも目を向けなければなりませんから、新しい視点からのイノベーションが必要になってくるでしょう。弓削 インバウンドは、かつての「爆買い」から、現在は体験型の「コト消費」が主流になっています。どちらも人が集まり活力を生むのですが、復興や経済のスケールという点では、体験やコト消費よりも、モノを売ることがまだまだ必要だと思います。現在の東北に求められる独自の魅力の再発見海外への展開に向けて新しい視点の獲得を14

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