岩手・宮城・福島の産業復興事例集30 2019-2020 東日本大震災から9年~持続可能な未来のために
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被災から4年後の2015年5月、ホテル部門に参入するために分社化、株式会社化してフタバ・ライフサポートを設立。同時に「ホテル双葉邸」を広野町にオープンし、宿泊業を再開する。ホテルが立地するのは、当時の帰宅困難地域との境界に近く、Jヴィレッジに隣接するエリアだ。オープンに当たって、復旧・復興工事に関係する土木・建設関係者の宿泊ニーズは見込めたが、「それ以上は見通せず、需要の予測というより、“需要希望”に近いものしかありませんでした」と崇氏。不安の中での再出発だったが、地方の宿泊施設には、「地域の人が集まるコミュニケーションの場」という役割が大きいと感じていた。「地域の復興のために、リスクがあっても進出する」という使命感もあってのことだったのだ。「双葉邸が進出することによって、この地を離れざるを得なかった人に『帰る場所がある』と思ってほしかったのです」と崇氏は語る。双葉邸の利用客には、想定していた土木・建設関係者のほかに、復興視察ツアーなどで訪れる人が意外に多い。地域の人の利用も少しずつ増えている。現在は町外に暮らしていても、墓が町内にあるので法事を広野町で営む際に利用といったケースだ。「コミュニケーションの場としての役割も、少しずつ果たしています」と、崇氏は評価している。今後については、事業を再開したJヴィレッジを訪れるスポーツ関係者の利用に期待する。そして2020年には、崇氏が生まれ育った浪江町に「ホテル双葉の杜もり」(仮称)をオープンする予定だ。現在の浪江町の人口は約1,000人しかなく、双葉邸をオープンした5年前より、ビジネスとしては厳しい状況にある。しかし、浪江町は「元々は魚介類をはじめ、食材に恵まれた土地」(崇氏)で、請うけ戸ど漁港も2019年10月に再オープンするなど、復興も進む。「漁業関係者と連携して魚介類を提供し、それを目当てにお客さまが来館されるようにしたいですね」と、崇氏は将来を思い描いている。東日本大震災後の厳しい状況にあって、父である会長の「ピンチはチャンス」という言葉に救われてきたという崇氏。経営者やリーダーには、状況を前向きに捉えて未来を語ることが求められるという父の教えを胸に、復興に邁まい進している。需要を見通せない中で宿泊業を再スタート故郷の浪江町に2020年にホテル開業株式会社フタバ・ライフサポートが広野町で運営している「ホテル双葉邸」は、シングルルームを中心に全76室。リラックスを提供することを考え、館内には靴を脱いで入るようになっていて、客室にも畳が用意されている。2020年には浪江町に「ホテル双葉の杜」(仮称)をオープン予定。取り組み概要●3月東日本大震災で、富岡町の旅館「観陽亭」被災●9月観陽亭をいわき市に移し、弁当事業を開始2011年●6月浪江町に「ホテル双葉の杜」(仮称)をオープン予定2020年30食事スペースは、「お食事処ひまわり」としても営業している●4月フタバ・ライフサポート設立●5月「ホテル双葉邸」を広野町にオープン2015年地域復興マッチング「結の場」2014年・グループ補助金・専門家派遣集中支援事業に向けて挑戦できることがたくさんあります。新ホテルにも期待が高まります。(新田氏)地域に安心と居場所を提供し続けることを考えてホテルを経営されていることは、SDGsの理念「誰一人取り残さない」につながっています。たくさんのものを調達し、かつ、お客さまに提供するホテルという場は、フードロスの削減、エネルギーの選択など、SDGs達成SDGsへの貢献が広がるホテルという場専門家によるコメントと評価131

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