岩手・宮城・福島の産業復興事例集30 2019-2020 東日本大震災から9年~持続可能な未来のために
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ゆ代表取締役社長の加藤勝一氏は「計画を立ててからここまで、大きな事故もなく順調に運営できています。当初はここまでスムーズに成果を出せるとは思っていませんでしたので、本当にやってよかったと思います」と笑顔で語った。再生可能エネルギー事業の成功で、温泉街にも活気が戻りつつあり、2018年度の観光客数は約27万人と、被災前と同じ水準まで回復。事業成功の秘訣を探ろうと、2018年の1年間だけで全国から行政担当者や大学関係者など、2,500人が視察や見学に土湯温泉に訪れている。発電事業成功にとどまらず、さらなる町の復興を目指し、ほかの事業にも積極的に取り組んでいる。2017年には温泉街の新しいアトラクションとしてエビ釣り場を創設するために、バイナリー発電後の温泉水や冷却水を利用したオニテナガエビの養殖を開始。まちおこしセンター「湯楽座」のレストランなどで提供している。また、視察などに訪れる人々のため、温泉水を活用した融雪機能を備える見学体験展望施設も完成させた。2017年5月には地域貢献事業として小学生の給食費や教材費を無償支援し、町から市内の高校や大学に通う学生、市内の病院へ通う高齢者のためにバス代の援助も開始した。これだけ見れば被災から9年で大きな復興を遂げているように思えるが、加藤氏はまだまだ課題は多いと話す。「2019年、町唯一の土湯小学校が休校になり、来年度に廃校が決まりました。小規模特認校に加えてもらえないかと行政側に働き掛けたのですが、力及ばず。それでも下を向いてばかりはいられませんから、多くの観光客を迎え入れるためにも、定住人口を増やすための努力は続けます」。将来的には、エネルギーの地産地消を図るスマートシティーの実現へ向け、今後もさまざまな施策を考えていくという加藤氏。「テレワークやサテライトオフィスが注目されている今なら、空き家になった旅館の建物を利用することも可能」と、東北道のICや東北新幹線福島駅からのアクセスの良さも強みと認識する。あくまでも構想の一つだが、観光業だけでは温泉街は続かないという考えを持つ加藤氏ならではの発想だ。いずれは発電事業者として電力供給をしたいという考えもある。伝統ある土湯温泉の新たな歴史は、元気アップつちゆが中心となってつくられていくことだろう。温泉街の新たな歴史へまちづくり事業に注力地元団体の出資で2012年に設立。再生可能エネルギー事業では、バイナリー発電所を管理・運営し売電を行っている。発電所の視察・見学、オーダーメード型研修プログラムも受け付けている。取り組み概要●4月つちゆ湯愛エビ釣り堀の営業スタート●10月つちゆ清流エナジー株式会社、つちゆ温泉エナジー株式会社を株式会社元気アップつちゆに合併統合2018年29●1月環境省による被災3県の再生可能エネルギーの可能性を探り緊急調査補助事業に採択●10月株式会社元気アップつちゆ設立2012年●6月2013年度再生可能エネルギー発電設備導入対策事業の補助金に採択●10月2014年度福島県市民交流型再生可能エネルギー導入促進事業費補助金に採択2013年●4月小水力発電での発電開始●11月バイナリー発電所の竣工式が行われ、発電開始2015年●6月2016年度第1回地熱理解促進関連事業支援補助金に採択●12月地熱理解促進関連事業支援補助金を利用し、エビ養殖施設、無散水融雪見学体験展望施設を起工2016年●5月エビ養殖施設が完成し、養殖スタート2017年●3月東日本大震災で温泉街の建物などが大きな被害を受ける●10月有志により土湯温泉町復興再生協議会(現土湯温泉町地区まちづくり協議会)設立復興を目標に再生可能エネルギー導入決定2011年ないものといえます。【目標7】だけでなく、【目標11、13】にも大きく貢献している事業です。(新田氏)SDGs達成において、国連においても、このままでは達成が厳しいと評価されている気候変動。気候変動問題とエネルギー問題は切っても切り離せません。そこに、地域資源と観光ビジネスを結び付け、複数の課題に同時に解決を目指す考え方は、SDGs達成に欠かせ複数の課題を同時に解決する視点が重要専門家によるコメントと評価129

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