岩手・宮城・福島の産業復興事例集30 2019-2020 東日本大震災から9年~持続可能な未来のために
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る」ことに通じる。それが顧客からの信頼、次なる受注へとつながると佐藤氏は考えている。そこで、社員は対人スキルの向上を中心に研修を受講。それが自信になり、後に外部企業との共同開発にも寄与した。一方で受注減の問題は解決せず、地道な経費節減に取り組む中、一筋の光が差し込む。2013年、福島大学から湖底の泥を採って放射能を調査する小型水中ロボットの開発話が舞い込んでくる。「当社が省力化機器の設計製作で培ってきた技術力や経験が役に立ちました。技術不足な面も、数多くの協力会社とのネットワークでカバーでき、本当に感謝しています」(佐藤氏)。結果、福島大と協栄精機を含めた地元企業4社で小型水中ロボットを開発し、調査実験は成功。この技術は、2018年7月に特許として認められている。共同開発において、関わる会社との密な連携は不可欠となる。それが構築できているのは、佐藤氏が大切にしてきた「人づくり」の成果の一つと言えるだろう。これが転機となり、ロボット開発の仕事が続く。株式会社IHIと「災害救援物資輸送ダクテッド・ファンUAV」の実用化開発に携わり、協栄精機は物資保持機構とカメラシステムを担当。現在では固定翼ドローンの開発にも参加するなど、成果を上げている。しかし、解決しなければいけない課題も多く残されている。まずは雇用の確保だ。南相馬市は福島県内で人口減少率が最も高い。人口を増やすためには、地元企業が中心となって基盤となる産業をつくることが必要だ。佐藤氏は「南相馬市は産業復興の柱としてロボットの街を掲げています。当社も、ロボット開発にさらに力を入れることで、ビジネスチャンスが数多く生まれると考えています。その中には、福島第一原子力発電所の廃炉事業への参入も含まれます」と構想を語る。「南相馬市に新たに進出する企業とも連携し、両者がウィンウィンの関係になれる仕組みを考えていかなければいけないと思います」。人口減少が続く街を活気づけ、「最終的には自社製品を開発したい」という目標を達成するためには地元企業、進出企業、研究機関、そして行政と、多くの人たちとの関わりが重要になってくる。だからこそ、「人づくり」の理念は今後も変わらず、次代へ受け継がれていくことだろう。人づくりを軸に外部と連携地域に基盤産業をつくる1976年創業。部品加工会社から始まり、現在は省力化機器、精密治工具設計製作、精密機器部品加工、ロボット開発など幅広い分野を手掛けている。中でもロボット開発事業には注目が集まり、2018年には経済産業省から地域未来牽けん引企業に認定された。取り組み概要28●3月福島第一原子力発電所事故の影響で全社員避難、旧工場も被災し事業休止●4月工場の稼働を再開●8月佐藤正弘氏が3代目社長就任2011年●2月ホームページ作成支援を受けた公式サイト公開●株式会社IHIと共に地域復興実用化開発等 促進事業費補助金を活用し、 災害救援物資輸送ダクテッド・ファンUAVの 実用化開発スタート●工場診断、コンサルティング、 集合研修支援を受ける2016年●6月福島県原子力被災事業者事業再開等支援補助金の認定を受け、生産管理システム導入2017年●7月福島大学などと共同開発した小型水中ロボットに関する特許取得●12月経済産業省から地域未来牽引企業認定2018年●災害対応ロボット産業集積支援事業費 補助金を活用し、福島大学ほか地元企業 4社で小型水中ロボットの開発に着手●8月ふくしま産業復興企業立地補助金の認定を受け第二工場(現工場)を増設し、業務移転2014年地域復興マッチング「結の場」標は不可分でありつながっています。【目標9】の達成を目指しながらも、「人を大切にする」ことを経営の中心に据えており、SDGs経営の模範となるモデルといえます。(新田氏)SDGsを達成するために大切な、頭文字が「P」で始まる5つの要素があります。その1つ目がPeople(人間)です。一人ひとりが大切にされること。人権の確立がSDGs達成の根底にあることを、佐藤氏は深く理解し事業活動を展開されています。SDGsの17の目人権の確立を中心に据えた経営モデル専門家によるコメントと評価127

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