岩手・宮城・福島の産業復興事例集30 2019-2020 東日本大震災から9年~持続可能な未来のために
125/145

盛んな地域。鈴木氏の実家で使っていたちりめん加工機のメーカーも神戸に近い淡路島にあり、そうしたメーカーの工場を見学したりする中で、今後の仕事に必要な知識や情報を得ることができたのだ。2013年、福島県相馬市に新設されるちりめん工場で加工責任者となる話が持ち上がる。工場完成までの準備期間中は宮城県石巻市の水産加工場へ出向し、未経験の干物・漬け魚等の製造を学んだ。結局、この話は頓挫したが、1年にわたって水産加工の技術や製造プロセス、従業員のマネジメントなどを学ぶことができた。鈴木氏は「現在の仕事につながる勉強ができたので、結果オーライです」と振り返る。そして2015年、水産庁の補助金を受けて、名取市閖ゆり上あげの水産加工団地で創業する機会が生まれた。現在の鈴栄の誕生だ。2016年には工場が完成。2017年からちりめんの加工と直販を本格的にスタートさせた。閖上漁港に水揚げされるシラスは、宮城県から新たに操業が認められたもので、「北限のしらす」の異名をとる。鈴栄のこだわりは「直販」だ。自ら商品を企画し、消費者に届けることで、「北限のしらす」の希少性やおいしさを、直接伝えることができる。被災前、鮮魚の売買を行っていたときには得られなかった経験だった。「北限のしらす」の認知を高め、鈴栄が宮城県の企業として地元に定着するために、名取市を通じて宮城農業高校と商品開発を行ったり、同じ宮城県の角田市のウメや、柴田町のユズを用いた商品を開発したりと、鈴栄ではさまざまな取り組みを行っている。高校生とのコラボレーションについて鈴木氏は「若い人とざっくばらんに話すことができるいい機会で、新鮮な発想に触れることができるチャンス」と語り、若者の柔軟なアイデアから、自らを省みることも忘れない。消費者の魚離れや水産資源の枯渇が問題となる中で、「これまでと同じ考えでは我々水産事業者の状況はさらに厳しくなります。宮城県の漁業を守るには、時代を先読みし、消費者ニーズに応えて需要を促す取り組みを継続的に行うことが必要です」と語る鈴木氏。今後は、中長期的な国の支援に加え、漁業者(生産者)と加工業者との連携も重要だと考えている。「北限のしらす」を製造直販で消費者に漁業を守るために水産加工業と連携を株式会社鈴栄は社員4名。名取市閖上の水産加工団地の一角にある工場では、作業工程のかなりの部分を自動化して、少人数でちりめんや佃煮などを製造し、直販している。工場近くの名取川の河畔に、2019年4月にオープンした「かわまちてらす閖上」には、鈴木健一氏の父が「魚匠 鈴栄」を出店し、鈴栄が製品の販売、しらす料理の提供などを行っている。取り組み概要●3月東日本大震災で鈴木健一氏は神戸に避難2011年●2月ちりめん加工技術の習得などのために宮城県石巻市へ2013年●1月水産庁の補助金申請●4月補助金の受給決定2015年●4月名取市閖上の水産加工団地に工場完成●5月ちりめん加工・直販を本格的にスタート2016年●4月「かわまちてらす閖上」の「魚匠 鈴栄」で自社製品を展開2019年27魚匠 鈴栄地域のことを直接伝えることも考えることもできます。SDGsの【目標16】にも大きな関心が高まる中、課題を見据えた達成に期待が高まります。(新田氏)働き方改革が叫ばれる現在、若い人たちが考える働き方と若い人たちがつくり暮らしたい地域を柔軟に取り入れる鈴栄の「水産業と加工業のさらなる連携が必要だ」とする考え方は、SDGsの【目標8】の達成にも貢献します。中小事業者だからこそ、消費者のこと、中小事業者だからこそ見える「地域の力」専門家によるコメントと評価2017年地域復興マッチング「結の場」125

元のページ  ../index.html#125

このブックを見る