岩手・宮城・福島の産業復興事例集30 2019-2020 東日本大震災から9年~持続可能な未来のために
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ホームページで初期校正を外部に呼び掛けたところ、オランダ国防省から引き受けると連絡があり、さっそく製品を送ると評価シートと証明書が送られてきた。「これは良いものだから、早く作って売るべきだ」という一筆と共に。自社製品を販売した経験はなかったが、米国のクラウドファンディングを使って2週間で150万円を集め、200台を生産。「ポケットガイガー」としてネット販売を始めると、30分で売り切れた。2019年現在、出荷台数は10万台にまで達している。当時はオープンイノベーションという言葉も一般的でなく、「横に手をつなぎながら助け合って商品化できないかというスタートでした」と、取締役社長の佐藤雅俊氏は振り返る。その経験で得たのは「思いを伝え、やってみせればなんとかなる」という気付きだった。もう一つの代表例が、北里大学で視覚機能療法を研究する半田知也教授と共同開発した弱視治療タブレット「オクルパッド」だ。特殊な眼鏡を掛けないと画面が見えない「ホワイトスクリーン」を使ったルイ・ヴィトンの広告展示を見た半田氏が、その仕組みを弱視治療に生かせると考え、ヤグチ電子工業に話を持ち掛けた。製品開発を進めるとともに医療機器の製造業、製造販売業の承認を取得し、2015年から販売を開始。ゲームを楽しみながら治療できると、子どもたちや保護者に喜ばれた。さらに、従来の治療法と比べて高い効果が得られることも分かり、2018年にものづくり日本大賞を受賞。現在はインドでも普及・実証事業を行っている。オープンイノベーション成功の秘訣を聞くと、「スピードだと思います」と佐藤氏。大手ならば稟議を通すだけで何週間もかかるところを、ものの数日で試作品完成まで進めることができる。もう一つは「広く浅く、何でもできること」。ポケットガイガーをきっかけに開発者や研究者など700人を超える外部の人的ネットワークが作られた。そのネットワークを生かせば、あらゆる可能性が生まれる。「組み立ての仕事がなくなるかもしれないといわれている現在、外部のスペシャリストと共に製品を作ることができるマルチな人材を育てていくことが、将来生き残るために私たちがすべきことです」と語る佐藤氏。共同開発と、それを可能とする人材の育成で活路を開く。大学と共同で医療機器開発速さを武器に外部連携加速ソニー「ウォークマン」の世界戦略工場として1974年に設立。電子機器・音響機器の組み立て、基板実装、官能検査を行う。2009年、生産拠点集約のため本社を宮城県石巻市に移転。OEM生産に力を入れる一方、東日本大震災をきっかけにオープンイノベーションによる自社製品開発にも乗り出す。取り組み概要●初の自社製品「ポケットガイガー」開発2011年●見えない液晶「ホワイトスクリーン」が ルイ・ヴィトンや国立科学博物館で採用2013年●科学技術振興機構(JST)の支援で 視機能検査訓練装置「オクルパッド」開発2014年●「オクルパッド」がみやぎ優れMONO認定2015年●小児向け両眼視機能検査装置 「ポケモン・ステレオテスト」発表、 みやぎ優れMONO認定2017年●クラウドファンディングMakuakeで OEM製品「GODJ Plus」が 国内最高額(5,303万円)達成●スマートフォン接続型の大気汚染測定器 「ポケットPM2.5センサー」発表●第三種医療機器製造販売業、ISO13485、 ISO9001:2015認証取得2016年●JICAの支援を得て「オクルパッド」の インドでの臨床試験開始●東北ニュービジネス大賞受賞、 ものづくり日本大賞(経済産業大臣賞)受賞●クラウドファンディングGreenFundingで OEM製品「OVO」が9,448万円を集め、 国内最高額を更新2018年26を効果的に導入することで具体的な製品を短期間で作り上げる実行力は【目標17】と【目標9】に合致しています。高い技術力と、中小企業ならではの柔軟性と機動性を生かした連携力に期待が高まります。(新田氏)【目標17】は、SDGsに取り組む上でのパートナーシップの在り方について述べたものです。その中の一つに、「さまざまなパートナーシップの経験や資源戦略を基に、効果的な公的・官民・市民社会のパートナーシップを奨励、推進する」という指針があります。外部の力柔軟性と機動性を生かしたパートナーシップ専門家によるコメントと評価123

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