岩手・宮城・福島の産業復興事例集30 2019-2020 東日本大震災から9年~持続可能な未来のために
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収。使えるものを選別、修復して需要に応えた。「多くの方々の力があったからこそ、われわれは復活できた。今でも感謝の念でいっぱいです」と千葉氏。2011年10月には早くも仮設工場を設置し、11月初旬には仮設店舗ならびに仮設事務所を開設。2012年4月には被災後、初めて採石も行い、伊勢神宮の依頼を受けた硯を生産した。2014年6月1日には中小企業基盤整備機構の支援により、仮設工房が開所。2016年には、雄勝地区にある唯一の商店街、おがつ店たなこ屋や街に店舗・事務所を設置している。雄勝石工芸品に対する需要は年を経るごとに高まり続けている。50種類ほどの製品をそろえるが、注文の多くは電話、メールを通じて寄せられる。買う側が商品を手に取って見られないため、千葉氏らは細やかな配慮をしながら販売している。「ヒアリングを徹底的に行います。お話を聞いて、こういうものの方が合っているのでは、という提案をすることもあります。いずれにしてもお客さまとイメージを共有し、それに合った商品を提供できるよう心掛けています」。2015年に始まった「いしのまき復興マラソン」には、主催者の依頼で2017年から雄勝石を使ったメダルを提供。このメダルを手に入れたいと参加するランナーも数多く、人気は非常に高い。雄勝石を使った工芸品の中で現在、主力となっているのは皿。最近も料理をテーマにしたテレビドラマで使われ、大きな反響を呼んだ。事業のこれからを見据え、2019年春には東日本大震災後初めて新卒者2人を採用した。千葉氏は「雄勝石を使ったさまざまな工芸品を永続的にお届けし、喜んでもらうためには人材の確保が何より大事です。この仕事は被災によって、改めて一からスタートしたともいえる。若い人たちの力でもっと盛り上がっていくはずです」と笑顔を見せる。ガラス作家と協力し、粉状の雄勝石を練り込んだガラス製品の開発に取り組むなど、新たな活用の道も積極的に探っている。高まる需要になお一層応える雄勝石工芸品の未来は明るい1984年に雄勝硯生産販売協同組合設立。1985年には通商産業大臣(現経済産業大臣)に、雄勝硯が伝統的工芸品の指定を受ける。雄勝硯の知名度は高く、硯以外にも雄勝石を使ったさまざまな製品があり、いずれも好評を得ている。被災後の2014年、仮設工房が開所。2016年にはおがつ店こ屋街に店舗・事務所を開設する。取り組み概要●東日本大震災後初めて採石を行い、 伊勢神宮の依頼で硯を生産2012年●東京駅のリニューアルに際し、スレートが 1万5,000枚、屋根材として採用される2013年●6月中小企業基盤整備機構の支援を受け仮設工房を開所2014年●おがつ店こ屋街に店舗・事務所を設置2016年●高卒者1人、大卒者1人の新卒2人を雇用2019年25雄勝石を使った多目的プレート、皿などの製品●被災後、ボランティアの力も借り、 がれきの中から原材料などを回収●10月仮設工場を設置●11月仮設店舗ならびに仮設事務所を開設2011年グループ補助金雄勝石の粉をガラス化した「雄勝ガラス」の酒器います。東日本大震災によって、価値観が大きく転換し、伝統文化が見直され、持続可能性が重要なキーワードとなりました。SDGsへの理解の障壁も下がった今、より積極的な事業展開を期待したいと思います。(新田氏)SDGsの達成には技術革新に注目が集まりがちですが、伝統や文化、さらにはスポーツも重要な成功への鍵であると、明記されています。まさしく雄勝硯で作られたいしのまき復興マラソンのメダルは、雄勝硯生産がSDGs達成に貢献するものであることを証明して伝統文化やスポーツもSDGsの重要な視点専門家によるコメントと評価121

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