岩手・宮城・福島の産業復興事例集30 2019-2020 東日本大震災から9年~持続可能な未来のために
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使った料理を大船渡温泉の名物に、③日曜日は地元の生産者に無料でロビーを開放し産直市を開催、④地元の木材を利用した薪ボイラーを採用といった取り組みだ。これらの施策は、それぞれ次のような波及効果をもたらしているという。①地元の人々と宿泊客(来訪者)の接点が増えた、②料理は地元の人々にも好評で宴会利用の需要も大きい、③地元の生産者・消費者にも宿泊客にも好評で幅広い交流が生まれている、④年間約2,000万円の燃料費の節減になっている――豊繁氏が地域社会への貢献で始めた施策が、結果として大船渡温泉の収益にも良い影響を及ぼし、大船渡温泉と大船渡の地域社会の持続可能性を高めているといえる。弟の繕隆氏は、ホテルチェーン運営会社に勤めていたが、東日本大震災を受けて、大船渡温泉開業の1年後、故郷に戻った。そして、自身の経験を生かし、特に施設運営、サービスの向上に力を入れた。客室の備品の見直しといった細かなところから従業員の教育まで、運営全般にわたって改善を積み上げていった。また、繕隆氏はインターネット上の口コミ評価を上げることにも力を入れていて、従業員による口コミ分析と改善策検討会、成果報告会を継続的に開いている。2018年には、宿泊客を対象にした観光ガイドサービスを立ち上げた。中でも、3月から11月に実施している「『幸せになれる』朝日体験in大船渡」は大好評で、体験者のネット投稿により、口コミ評価を上げることにも大きく貢献しているという。また、2019年、ソニー銀行を通じ「大船渡温泉応援ファンド」の募集も行った。経営的な理由もあるが、「大船渡温泉のストーリーを少しでも多くの方に知ってもらい、新たな視点での理解者が出てくれればという期待が大きかった」(繕隆氏)という。豊繁氏と繕隆氏、それぞれの経営努力の結果、2019年4月決算で開業から5年目にして初めて最終利益を計上できた。今や大船渡温泉は、地元の人々の憩いの場となり、若者も高齢者も働く魅力的な職場になっている。豊繁氏は「この地に魅力的な産業が生まれなければ、大船渡の課題は解決されない。その点、観光業の可能性は大きく、これからも大船渡の未来のためにがんばっていきたい」と語っている。クラウドファンディングで理解者を増やそうと考えた●大船渡グランドホテル跡地を購入2004年●温泉宿泊施設の建設を計画していたが 東日本大震災発災により中断2011年●温泉の掘削に成功2009年●7月大船渡温泉開業地元雇用の従業員35人でスタート2014年●9月弟の繕隆氏が支配人として入社2015年●宿泊客向けに観光ガイドサービスを開始2018年●客層の軸を観光客にシフトするため ネット販売を強化2016年24志田豊繁氏は、漁師でもあり、大船渡市の碁石海岸で民宿経営もしている。開業に当たっては、民宿経営の経験をベースに、「宿泊業で利益を上げながら、地元の人々が銭湯並みの料金で入浴できる」ことを考えた。開業1年後、繕隆氏が経営に加わり、宿泊業者としてのプロフェッショナル化を進めた。取り組み概要●7月繕隆氏が専務取締役として経営に参画2017年専門家派遣集中支援制度●2月クラウドファンディング開始3,000万円を超える資金調達に成功●10月「いわて子育てにやさしい企業等」認証2019年復興庁クラウドファンディング支援事業離されることなく運用されていることが、SDGs【目標7、8、11】に大きく貢献しています。地域の方たちと協力して開催されている産直市は【目標12】にも大きく貢献する可能性があり、今後の展開にさらに期待されます。(新田氏)SDGsの【目標8】の具体策の一つに、「雇用創出、地方の文化振興・産品販促につながる持続可能な観光業」の発展が挙げられています。大船渡温泉の事業活動は地域をより良く持続可能にしていくものですが、その取り組みが、「環境」「社会」「経済」の三側面と切り「環境」「社会」「経済」が一体となった取り組み専門家によるコメントと評価119

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