岩手・宮城・福島の産業復興事例集30 2019-2020 東日本大震災から9年~持続可能な未来のために
117/145

にカイゼンに取り組んでいる。それは労働生産性の向上、会社の体質強化につながった。また、2013年からは、相模女子大学(神奈川県相模原市)の復興支援学生ボランティアとの連携による新商品開発にも挑戦した。このプロジェクトからは、消費者視点のマーケティングを学んだ。そして、2013年、取締役本部長・森下航生氏が会社のスローガンとして「大船渡から世界に向けて」を掲げ、事業の高度化に向けた本格的な取り組みを開始した。11月には、岩手銀行・東北銀行の支援と、公益財団法人三菱商事復興支援財団からの出資を受け、第三工場の建設に着手。機械メーカーと共同開発した独自の生産ラインを導入し、2015年4月から生産を開始した。第三工場の稼働で加工度を上げることができるようになり、消費者ニーズの高い簡便商品、高付加価値商品の開発、生産が可能になった。業務用主体だった商品ラインアップに消費者向けアイテムが加わり、事業範囲は大きく広がった。現在は、大手コンビニのPB商品も扱っている。さらに、原料の水産品を世界各地から調達することも始めた。これにより、時期・魚種・数量とも大船渡の水揚げに依存した経営から脱却し、売り上げの安定化と作業量の平準化を実現した。その結果、水産品を冷蔵・冷凍して販売する「水産事業」と、加工食品を企画開発・製造・販売する「食品事業」の売上高構成比が、東日本大震災前の「6:4」から「2:8」へと劇的に変化した。一連の事業改革は、社員一人ひとりにも良い影響を与えた。作業量の平準化は、残業が続く繁忙期と休みが続く閑散期を減らし、収入を安定させた。また、消費者向け商品を手掛けることで、社員のやりがいが増し、やる気を高めた。こうして森下水産は、復旧を超えた「復興・進化」の道を歩んでいる。実際、第三工場が稼働した翌年の2016年には東日本大震災前の売り上げを上回り、2019年は過去最高を記録した。従業員数も被災前の100人規模から、130人にまで増えている。その原動力となったのは、「水産のまち大船渡が人と魚でにぎわうこと」(幹生氏)を願う思いだ。原料の調達先も、販売先・販売商品も見直し、意欲的に事業モデルを転換させた経営判断が実を結ぼうとしている。第三工場が稼働し、被災前の売り上げを超えた東日本大震災によって本社工場と2011年に入って取得した第二工場、保管冷蔵庫が全壊。事業再開に向けては二重ローンの問題が重くのし掛かったが、「復旧」ではなく「復興・発展」を目指し、新工場建設やサプライチェーンの見直しなど、意欲的な設備投資、事業展開を行った。その結果、2016年に被災前の売り上げを超えた。取り組み概要●10月食品安全規格「JFS-B」適合証明を取得2019年23●3月本社工場、第二工場、保管冷蔵庫が全壊●7月本社工場の一部で生産を再開●9月本社工場が完全復旧●10月第二工場が完全復旧2011年●6月保管冷蔵庫が完全復旧2012年●3月三菱商事復興支援財団からの出資が決定●11月第三工場建設、着工2013年ら調達するという発想の転換も、SDGs時代ならではといえます。既成概念にとらわれない発想の転換は、SDGsの【目標4、8、9】の達成を考える上でも参考になります。(新田氏)同社の取り組みは、SDGsが掲げる「チェンジ(変更)ではなくトランスフォーメーション(変革)へ」に共通する考え方です。従業員の自立や安定、やる気も両立させた変革は、強いリーダーシップと覚悟によるもの。大船渡にこだわるからこそ、原材料は世界各地か既成概念にとらわれず世界に目を向けた変革専門家によるコメントと評価2014年地域復興マッチング「結の場」●2月第三工場、竣工●12月相模女子大学と連携し「サーモンとほうれん草のキッシュ」を開発2015年被災地域企業新事業ハンズオン支援事業●1月初の一般消費者向け商品「モリーくんのふわっとろサーもん」を発売2016年専門家派遣集中支援事業117

元のページ  ../index.html#117

このブックを見る