岩手・宮城・福島の産業復興事例集30 2019-2020 東日本大震災から9年~持続可能な未来のために
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商品化したのは2003年のこと。「『CRAFTMAN』は輻ふく射しゃ熱利用構造で電力を必要としません。そして、ほぼ完全燃焼を実現。環境負荷の非常に小さい暖房器具として高く評価され、全国にファンがいます。ありがたいことです」。家庭用だけでなく、農業用ビニールハウスでの利用を想定した「ゴロン太」シリーズもラインアップし、さまざまなニーズに応えてきた。ワカメ高速攪かく拌はん塩漬け装置「しおまる」は2008年に商品化。「独自の攪拌技術により、従来手作業で20時間以上かかっていた塩蔵加工が500㎏を1時間でできると、購入者には大変喜ばれています」。ワカメの一大生産拠点である三陸地方を中心に、こちらも全国で活用されている。東日本大震災では事務所棟と第3工場が全壊、第1、第2工場が大規模半壊となった。石村氏はその翌日、避難所から会社に赴き、そこで被害の甚大さを目の当たりにする。社業をこの先どうするか……自身の意思が決まらないうちに、数日後には社員たちが自発的に集まり、工場の片付けを始めた。その姿を見て、石村氏は事業継続を決断した。東日本大震災後、石村氏を大いに元気づけたのが全国にいる「CRAFTMAN」のファンだった。「義援金を送ってくれるだけでなく、新たな注文をたくさんいただきました。本当にうれしかったです」。「しおまる」についても、三陸地方ですでに利用していた漁業者からは修理や新設の依頼が大量にあり、解雇者を出すこともなく石村工業の社業は順調に回復していった。「しおまる」の評価は高まる一方で、2015年度文部科学大臣表彰・科学技術賞、2016年度産学官連携者表彰・農林水産大臣賞を立て続けに受賞した。ここ数年は、これらの製品の需要が一巡したことで売上高は前年度を下回って推移しているという。そんな中、石村氏は今後を見据えた新製品の開発にも意欲を見せる。「しおまる」では、独自の攪拌技術を生かした新たな用途として、野菜洗浄での利用を提案。現有技術を基に、用途を広げるアイデアが生まれている。また、ペレットストーブの燃料である木質ペレットは、持続可能なエネルギーとしても注目される資源だ。SDGs(持続可能な開発目標)に関連する世界的な動向の中で、需要の安定にも期待がかかる。製品のファンに元気もらう新用途提案に活路も製鉄の街として栄えてきた釜石市で1959年12月に鉄鋼関係の工事請負業者として設立。経営の安定化を図るため、発注者からの案件だけに頼らない自社製品の開発に注力。2003年に薪ストーブ「CRAFTMAN」、2008年にワカメ高速攪拌塩漬け装置「しおまる」を相次いで商品化した。現在は既存商品の新用途提案に注力し、新商品の開発も構想する。取り組み概要●全国のファンからのニーズ強く 「CRAFTMAN」シリーズを300台超出荷2011年●「しおまる」が 文部科学大臣表彰・科学技術賞を受賞2015年●「しおまる」が 産学官連携者表彰・農林水産大臣賞を受賞2016年●釜石市のふるさと納税返礼品として 「CRAFTMAN C3」に4人の希望者2019年22薪・ペレット兼用ストーブCRAFTMANグループ補助金2018年専門家派遣集中支援事業2014年地域復興マッチング「結の場」いでしょうか。顧客が全国に存在することも、被災からの復興を後押しし、さらに次の新規開発への意欲につながっているのだと思います。気候変動から気候危機といわれる中、【目標7】の達成に大きく貢献する事業活動は、大変重要になっています。(新田氏)どうやって生産された、どのようなエネルギーを使うのかを一人ひとりが選ぶことができる時代になってきました。製鉄に関わるからこそ、着目されたであろうエネルギーの課題や問題について、具体的な解決製品を手掛けられるのは、地域企業ならではの取り組みではな気候変動に“具体的な”解決製品を提供専門家によるコメントと評価115

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