岩手・宮城・福島の産業復興事例集30 2019-2020 東日本大震災から9年~持続可能な未来のために
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ことにした。「あのとき、こんな事情だからと断ることもできたと思いますが、今振り返っても入社してもらって良かった。うれしいことに彼はいまや、当社にとって大きな存在に育っています」と当時の判断を振り返る。2代目で、「どこかレールに乗せられた自分の有様にずっと引っ掛かるものがあった」という和孝氏だが、被災を機に一から会社再建を進めたことで、それも消えた。いわば起業家精神が芽生えたのだ。被災後はまず、応急仮設住宅を木造で建設することが大きな仕事となった。地元の大工、工務店と協力し、地元の木材アカマツを活用した仮設住宅を提供。多くの入居者から、「木のぬくもりを感じる」と喜ばれた。「その後、復興住宅の供給グループを組成する際も、仮設住宅建設事業で得られたネットーワークやノウハウを生かすことができました」と振り返る。応急仮設住宅がきっかけとなり、地元木材活用の機運が醸成された。現在は木材利用の新たな一手として、住宅以外での活用、さらには完成品の提案も行っている。「家具での利用促進のほか、『木の花』や『木の賞状』を商品化しています。木もく育いくにも力を入れていて、小中学生による木工工作コンクールなども開催しています」と和孝氏。さらなる有効活用を推し進めるべく、2014年にはマルヒ製材を含めた6社で久慈バイオマスエネルギー株式会社を設立。和孝氏は代表取締役社長に就任した。「樹皮はかつて暖房の燃料でした。それがいつの間にコストをかけ、処分するものになっていた。もう一度、樹皮を使おう、資源の無駄をなくそうと、熱供給プラントを立ち上げ、運営を始めました」。プラントの稼働は2016年9月から。隣接する大規模園芸団地へ、ハウス暖房用の温水と菌床殺菌用の蒸気を供給し、エネルギーコスト削減に大きく貢献している。さらに、樹皮燃焼後の排気を利用し乾燥させた木質チップは久慈市内に提供。久慈市が進める地域循環型による木質バイオマス熱利用拡大の一翼を担う。現在、最大の課題として捉えているのは雇用の確保。また、会社を維持、拡大するためにも新規事業開発は欠かせず、今後はこれまで以上に完成品の分野に重きを置く予定だ。そのためにも、「他社とのコラボレーションも積極的に進めたい」と意欲を燃やす。資源の有効活用さらに推進熱供給プラントを立ち上げ1989年1月4日に法人化。木材・建材のプレカット加工・販売を行う。地元材であるアカマツの活用に注力し、東日本大震災後は木造の仮設住宅、災害復興公営住宅の建設において大きな役割を果たす。2014年には樹皮を燃料とした熱供給会社久慈バイオマスエネルギー株式会社を設立。取り組み概要●3月被災で社屋などが壊滅的被害を受けるも日當粕太郎社長が再建宣言木造仮設住宅の建設事業を請け負う2011年●9月久慈バイオマスエネルギー設置の熱供給プラント稼働開始2016年●木造の災害復興公営住宅の建設事業を 請け負う2013年●2月久慈バイオマスエネルギー株式会社設立2014年●1月自然塗料メーカーの株式会社シオン、株式会社イトーキと共同開発したアカマツ活用ベンチを商品化2017年●久慈バイオマスエネルギー株式会社として 平成29年度 東北再生可能エネルギー 利活用大賞を受賞2018年21燃料となる樹皮グループ補助金2015年地域復興マッチング「結の場」域の持続可能性にも大きく貢献しています。復興住宅建設で培ったネットワークで、新しくエネルギー事業を立ち上げることは、SDGsの【目標17】にある、いろいろな立場の人たちと共通の目標のために連携しようという目標にも貢献しています。(新田氏)木材が生かされ、そのことが地域全体の経済も環境も社会もより良く循環するという考え方は、SDGsが掲げる「次世代も地球も持続可能である」という目標と共通しています。特に、小中学生も巻き込んだ事業展開は、地域で顔の見える関係だからこそ続く活動。地「顔が見える地域」で生きる木材活用専門家によるコメントと評価113

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