岩手・宮城・福島の産業復興事例集30 2019-2020 東日本大震災から9年~持続可能な未来のために
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2016年には、16年ぶりに県清酒鑑評会知事賞を受賞。曙酒造の復活を印象付けた。また、2017年から、曙酒造は「興おこし酒プロジェクト」に参加。興こし酒(2017年「絆き結ゆ」、2018年「絆きずな舞まい」、2019年「絆舞令和」)の造りを担った。販売面では、「地酒は地元の人に愛されてナンボ」(鈴木氏)との思いから、地域の酒店に協力を仰ぎ、県内での販売比率を上げることを目指した。東日本大震災前に4割程度だった県内出荷量は、7割近くにまで伸びている。曙酒造の“快進撃”を支えたものの一つに、充実した製造設備がある。職人の経験と勘に頼るのではなく、年間を通して安定した品質の酒が造れるよう、特に温度管理、衛生管理にこだわり、設備を更新していった。「グループ補助金のおかげで、ほぼ思い描いていた通りの設備を、スピード感を持って導入することができた」(鈴木氏)。しかし、設備が良ければ良い酒ができるわけでは、もちろんない。鈴木氏は、酒造りにおいて大切なことを、こう語っている。「酒は鏡で、造り手の気持ちを映します。酵母や麹は、蔵の姿勢や、蔵の設備、造り手の資質を見ているのだと思います。科学的な根拠のある話ではありませんが、私にとっては真実です。だから、造り手には、楽しい心持ちでいてもらわないといけない。職場の雰囲気も、働きやすさも、生活を保証することも大事だと思っています。酒は造って終わりではありません。酒を飲む人がいて、その人が幸せになってくれるところに、酒と酒の文化があるのです。どうすれば曙酒造の酒を飲んでくれる人が幸せな気持ちになるのか、そこまで思いをはせて取り組んでいかないといけないと思っています」。グループ補助金で、思っていたような設備を導入した1徹底した温度管理、衛生管理の中で行われる仕込みの作業2「理想の酒造りを追求したい」と語る鈴木氏3米の銘柄などを変え多様な種類を展開する主力商品「天明」4多彩な銘柄を扱うため米の品質管理も重要5倉庫を拡充、温度管理もきめ細かく行えるようになり、出荷前の製品の品質管理、銘柄に合わせた熟成も可能になった6設備の更新によって作業の機械化も進み、多品種の開発・生産を実現している72014年から毎年開催しているイベント「一番しぼりを楽しむ会」。2019年は400人を超える参加があり、地元ファンが定着している65興こし酒プロジェクト信用金庫の被災地復興支援の取り組みで、2017年は被災4県(岩手・宮城・福島・熊本)の米を、2018年からは47都道府県の米を使って酒を造り、売り上げの一部を被災地に寄付している。20復興五輪新分野/新市場/海外進出観光振興/地域交流拡大事業承継被災地での再生・創業/被災地への進出47福島から発信する思いのこもった銘醸酒造には杜氏の専門技能が必須だが、強い想いだけの人間が無二の酒を醸した事例は全国に事欠きません。曙酒造さんのファンが問うのは、ついには造り手の心映えだと言うこともできるでしょう。成功のポイント老舗にこそ「異端」に挑む資格がある食品会社の商品企画は自由度が高い。曙酒造さんがヨーグルトに着目したように、精米歩合や酵母菌、変わり原料から新機軸が生まれます。世界からも注目される「異端」に期待したいところです。期待するポイント監修委員によるコメントと評価弓削 徹氏監修委員107

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