被災地での55の挑戦 ―企業による復興事業事例集―
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72 '3(チャレンジ'挑戦( 当漁協は、食品加工場の復旧後、生産を再開した〆さば等の販売を震災前の顧客に提案したが、既に他のメーカーの商品が供給されており、十分な量の販売にはつながらなかった。そこで、震災前から取引のあったイオンのバイヤーに相談したところ、新たな取組みとしてファストフィッシュの商品開発を持ちかけられた。ファストフィッシュとは、手軽においしく水産物を食べること、およびそれを可能にする商品や食べ方のことで、水産庁は「魚の国のしあわせ」プロジェクトの一環としてファストフィッシュ商品の認証を実施している。「骨がない、調理が簡単」というファストフィッシュ商品のマーケットは、高齢化や共働き世帯の増加といった社会背景を踏まえると、需要は一時的なものではなく、中長期的に増加するものと予測されている。 検討の結果、当該商品は、三陸産の素材を使用したファストフィッシュ商品として開発、製造、販売することとなった。当漁協は、イオンのアドバイスを受け商品開発を行い、開発後はさんま、さば等の原料調達、商品加工、包装までを担当することとなった。イオンは、当該商品を買い取り、各店舗で販売することとなった。なお、当該商品は、三陸産原料を使い三陸で加工されていることを前面に押し出し、当該商品購入が震災復興支援になることをアピールして消費喚起を狙うこととした。そこで、全国で知名度があり、また三陸の地域ブランドとして浸透しているキャラクターをもっている三陸鉄道㈱と連携することとした。具体的には、商品販売にあたり三陸鉄道の名称を使うとともに、当該商品のパッケージデザインに三陸鉄道㈱が自社で開発したキャラクターコンテンツ「鉄道ダンシ」及び三陸鉄道沿線の観光資源を使用することである。 こうして水産庁が「魚の国のしあわせ」プロジェクトで実施しているファストフィッシュ選定の2012年8月第1回 で選定され、「骨取り味つきさんま」(スパイシー風味、バジル風味、シソ風味の3種類)をイオンで販売を開始した。「骨取りさんま」の販売は大変好調であったことから、当漁協、イオン、三陸鉄道のコラボ商品第2弾として「骨取りさば」(塩麹風味、スモーク風味、ブラックペッパー風味の3種類)を開発し、2013年2月に販売を開始した。現在、「骨取りさば」の販売も好調であり、新製品の開発も続けており、継続した取引を行っている。この結果、当漁協の食品加工場の稼働率は高く、人員を増員して対応している。また、ファストフィッシュ商品は冷凍保存したサンマ・サバを使用するため工場の安定稼働が実現している。また、当該商品は三陸地域のPRにもつながっていると考えられる。 今回の取り組みでは、当漁協にとっては、流通企業のイオンと連携することにより、消費者のニーズを深く知ると共に製品開発から販売までのノウハウや知見を蓄積することができた。当漁協がイオンとの連携に成功した理由としては、久慈地域そのものが、生産地としての優位性を満たしていることに加え、当漁協が大手企業の要求を満たすことができる衛生管理が行き届いた十分な生産能力を持つ加工施設を有していることや原料調達から加工まで行うことのできる経営能力を持っていることが挙げられる。特に、原料調達については、当漁協及び久慈市は全国各地でポートセールスを実施し、久慈漁港で水揚げするよう働きかけ、対象魚種の安定した水揚げを確保している。 '4(エッセンス'大切なこと( ファストフィッシュ商品 当漁協の取り組みは、消費者ニーズを把握するための流通業と接点をもち、震災後その関係を発展させ、消費者ニーズに対応した高付加価値の新商品開発を実施、継続取引に結びつけたことに特徴がある。地域の水産業が大手流通企業と連携することで、水産加工品の高付加価値化を実現、さらに地域の鉄道事業者のキャラクターコンテンツとも連携し、差別化を図っている点が注目される。

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