被災地での55の挑戦 ―企業による復興事業事例集―
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70 '3(チャレンジ'挑戦( 商品開発のプランニングで重視していることは、地元にあるものを当たり前と捉えない「よそ者の視点」で地域資源を捉えることである。土産物を販売しているかぎりは地元の人間が商品開発をすればよいが、販路を首都圏や全国に拡大しようとすれば地域外の人間の感性が重要になってくる。当社の新しい商品やデザインの開発には東京の専門家を頼ることが多い。 また、当社では、琥珀商品の単体の魅力である機能性やデザイン性だけなく、琥珀商品を使うことでこれまでのライフスタイルがどのように素敵で豊かに変化するのかという点を消費者に訴求することが大切と考えて、「アーバン・アンバー・スタイル」というキャッチフレーズで琥珀商品のトータルコーディネートも提案している。 こうした取組のおかげで、震災前はアクセサリー以外の商品の売上は全体の5%未満であったが、現在では15%を占めるに至っている。当社では、琥珀商品を今後も開発していくための課題として、粉末成型加工の際の歩留まり改善と琥珀のグレーディングやブランディングが必要としている。 このうち、粉末成型加工プロセスに関しては産学官連携によって新たなイノベーションが生まれつつある。科学技術振興機構(JST)の復興促進プログラムに、岩手大学と埻玉県のポーライト株式会社との共同研究開発が採択され、琥珀粉末の加熱プレス成形技術の開発に取り組んだ。この研究のおかげで安定した成型条件が見出され、歩留まりの改善と複雑なプレス工程が可能となり、久慈琥珀を使用した文具や眼鏡フレームなどの製品市場の拡大が見込まれている。 琥珀のグレーディングについては、当社で独自の鑑定基準を開発中である。色や重さ、固さ、原産国などで区別して琥珀自体の価値を「見える化」する。従来は成型加工品に関しては、ロシアバルト海産の琥珀原料が7割を占めていたが、今後は久慈産の原料を増やしていき、ブランド価値を高める方針である。 当社が取り組む産学官連携は成型技術だけでなく、久慈琥珀抽出新物質(kujigamberol)を使用した化粧品の開発(岩手大学農学部木村研究室、株式会社実正)、インダストリアルデザインの共同開発(岩手大学教育学部)、岩手県浄法寺漆との農商工連携による商品開発(岩手県浄法寺漆生産組合)にまで及んでおり、新商品の開発に挑戦していている。いずれも久慈市の紹介がきっかけで開発に至った。 '4(エッセンス'大切なこと( セーラー万年筆㈱と共同開発した久慈琥珀万年筆 従業員100名以下の企業が琥珀の商業化'技術開発からブランディング(を単独で行うことは、資金・人的リソースの面からも限界がある。そのため、当社では、岩手大学'農学部・工学部・教育学部(や研究助成機関'JST(、経済団体'東北経済連合会(などのネットワークを積極的に活用して事業を進めている。 新田氏は、「大学側は基礎研究が主たる目的でビジネス性'コストや利益(を第一優先にしないため、企業側が当該技術をどのように活用してビジネスを生み出していくかをリードしなければなりません。多くの企業が大学と共同研究を実施すれば必ずビジネスで成功できると考えがちですが、共同研究が成功したとしても技術の実証に成功したに過ぎず、ビジネスの成功を約束するものではないのです。この点をよく理解しておかないと失敗することになるでしょう」と、産学官連携を成功させるには参加主体の認識ギャップを埋めることが重要であると指摘している。また、産学官連携のメリットについては、大学の基礎研究段階の技術力の活用、大学研究者の紹介を通じた企業ネットワークの拡大、広告効果'大学の先生が講演や学会で取組内容を発表してくれる(などを挙げている。

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