被災地での55の挑戦 ―企業による復興事業事例集―
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38 「フラガールきづなスクール」の風景 泊利用者は順調に客数を伸ばし、2014年3月期に42年ぶりに過去最高記録を更新し、45万人に達する見通しである。ただし、原発事故による風評被害から日帰り客のメインであるファミリー層はまだ十分に戻ってきていない。当社は現在、様々な施策を通じて集客力の更なる強化に取り組んでいる。 '3(チャレンジ'挑戦( 震災以後、当社が四半期ごとに関東の1都7県のファミリー層を対象に実施しているアンケートでは、「原発事故の影響から福島への旅行を差し控える」と回答する人が依然として多い。原発事故の影響から福島の海水浴場の利用者も回復せず、周辺の水族館等の観光施設や旅館に人が戻っていない。福島の海水浴場や観光施設等の利用者の多くがハワイアンズに来館していたことから、周辺地域に人が戻ってこなければ当社の日帰り客を中心とする集客力も本格的な回復には至らない。そのため、地域一体となった風評対策がより一層重要となる。 2011年5月に開始した「フラガール全国きずなキャラバン」は被災地の復興の象徴として大きく注目されたが、現在、当社はファミリー層への風評対策として「フラガールきづなスクール」に力を入れる。同スクールは2013年4月にいわき市立江名小学校を皮きりに全国各地の小学校を訪問し、フラガールが震災を通じて自ら学んだ「あきらめない姿勢」や仲間の大切さを伝えるとともに、児童たちと一緒に踊るダンス体験を行っている。子供たちをはじめ、話題を集めているという。基本的には交通費・宿泊費・出演料の全てをハワイアンズが負担。また、食に対する風評被害が依然として大きいことから、JA全農福島からの協力依頼をきっかけに、フラガール全員が県産物の安全・安心を呼び掛けるPRサポーターに就任し、農作業の実体験や県産品のPR活動に積極的に取り組んでいる。いずれの活動も地域との共生を大事にする当社ならではの取り組みである。若松氏は「私どもの活動を通じて福島県を代表する人間のメッセージを力強く伝えることが使命。地元の活性化がハワイアンズの為になる」と語る。 地域一体となった集客力の向上策以外にも当社独自の取り組みにも力を入れる。例えば、「年間フリーパス」、「東京など首都圏からの往復無料バス」、「バス代と入館料をセットにした日帰りバスツアー」等、県外からの利用者が気軽に来館しやすいプラン作りに工夫を凝らす一方、ハワイアンズ自体の魅力を高める努力も怠らない。開放的でリラックスできる雰囲気作りのために、従業員は「アロハー」と訪れる客に語りかけ、福島弁という従業員自らの飾らない言葉で利用者の目線に立った接客を心掛けているという。また、当社はサービス品質の向上のために「ワクワクプロジェクト」を実施している。お客様にワクワク感、感動を与えられるようなサービスを提供するため、各現場でプロジェクトチームを編成し、小集団活動を実施。活動状況は「覆面調査員」がチェックし、一丸となって取り組む。ハワイアンズの「顔」であるフラガールのショー以外にも、従業員が一枚岩となったサービス提供が当施設の魅力の一つとなっているのだ。若松氏は「いわき市は観光地として認知度が決して高いとは言えない地域。魅力を高める努力を怠ればお客様は来ない。今後も一丸となって先頭に立って福島に人の流れを生み出す施策を打ち出していきたい」と力強く語る。 '4(エッセンス'大切なこと( 震災後、九州、関西、北海道といった関東圏以外の利用者が増加しているが、今後は国内利用者の増加を図る一方で、近隣空港と連携して海外利用者の拡大を目指していくという。当社は2013年6月にみずほ銀行の元常務井上直美氏が新社長に就き、新たなスタートを切った。新体制の下、「ハワイアンズは『一山一家』という企業文化の上にどのような魅力を提供し、復興を力強く進めるのか」、今後の動向が注目される。

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