被災地での55の挑戦 ―企業による復興事業事例集―
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34 高付加価値商品のブランド戦略も同時に進められ、北海道から九州に至る地域一番店の百貨店への出展等により高級感の形成に努めた。併せて、1997年には量販店向けブランド(陸前屋高橋商店)を立ち上げ、量販店向けの収益を確保することで、高級商品である「髙政」ブランドが浸透するまでの事業の安定化を目指した。魚肉練り製品へ参入して12年目の2006年度から通期で黒字を確保できるようになった。以降はブランドの浸透も進み、売上は伸びていった。増加する需要に対応するため2010年に工場を24時間操業にしたが、それでも生産が追いつかず、安全面や労務管理面の問題もあったことから、2010年11月、新工場建設に着手した 。 '3(チャレンジ'挑戦( 震災時において、当社は震災当日に女川町内など歩いて行ける範囲の避難所に出荷予定だった商品を配った。商品が無くなった後も、電源車の確保など手を尽くして生産を再開し、地域の被災者への食糧支援を47日間続けた。また、震災後においても一人の従業員も解雇せず、給与も遅配することなく支給した。このような行動の理由に関して高橋専務は「当社が存続できるのは地域の人たちや従業員がいてこそであり、ごく自然に行った」と語る。雇用や納税など、地域経済において企業が果たす役割は大きい。「人々が等しく地域に定着できる環境づくりは、企業が果たすべき役割である」と高橋専務は言葉を続ける。 食糧支援活動をはじめとする、当社の震災時の行動はマスメディア等に報じられ、当社の姿勢や取り組みが全国各地の顧客の共感を呼び、商品購入の増加に繋がった。当社の売上高は、震災前が20億円程であったのに対し、2012年度は28億円、翌2013年度は29億円(見込み)と、震災後に著しい増加がみられる。震災後、百貨店での売上が5%程増加する一方、通販の売上は、全国各地で顧客が増加し、かつ、これら顧客の購入回数の増加を背景に、震災前から2.5倍と大幅に増えている。 こうした通販の増加を受けて、当社では通販部門への注力と体制強化に取り組んでいる。ネット通販に関しては、女性社員4名からなる商品開発チームを立ち上げてネット通販専用商品の開発を進めており、2014年春の発売を目指している。また、コールセンターは現状15名体制で対応しているが、1日に3000~4000件寄せられる問い合わせへの対応に支障を来すようになってきていることから、2014年中に人員を増加するなど体制強化を図る方針である。 一方、新工場は当初予定より3ヶ月遅れて2011年8月末に完成し、翌9月から稼働した。生産能力は、ライン増設により以前の4倍となったものの、増加した通販からの注文をはじめとする需要にはフル稼働でようやく対応している状況である。新工場は、水産加工業の工場として初となるオール電化の採用等、環境負荷低減をコンセプトに設計された特徴をもつほか、工場見学コースや笹かまぼこ焼きの体験コーナーを設置し、当社商品の直販店舗「万石の里」も併設するなど、来訪者にとって魅力的なコンテンツを充実させている。こうした新工場や店舗は、地域における観光の拠点として女川町に多くの人を呼びこみ、地域活性化を促進する役割が期待される。 '4(エッセンス'大切なこと( 笹かまぼこをはじめとする商品づくりに対するこだわり、震災発生時における被災者支援や従業員に対する対応、新工場の地域観光拠点としての位置づけなど、当社の一連の取り組みは、地元である女川町を大切にするという規範をベースに行われている。「髙政らしさ」というコンセプトに代表されるこうした当社の独自性は、当社の商品自体が持つ品質の高さと相まって顧客からの多くの支持を得るに至り、当社業績の向上にもつながっている。 新工場と店舗「万石の里」

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