被災地での55の挑戦 ―企業による復興事業事例集―
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30 '3(チャレンジ'挑戦( 当社は、震災で大きな被害を受け、被災地の現状を伝えること及び集客を目的に、フロントライン研修、震災学習列車を実施している。販売は、メディアからの注目度が高いことも手伝って、直販が9割、旅行代理店経由が1割となっている。 フロントライン研修は、被災地をバスで巡る1泊2日の団体ツアーで2011年5月に開始された。震災後、被災地視察のニーズが多く寄せられたことから企画された。行程は各団体の要望に応じ、視察場所、住民によるガイド等を決定するオーダーメイド対応としている。販売は主に自社による直接販売である。フロントライン研修は2011年度に147件、3,018名を案内しており、2011年度の当社の旅行業全体の収入に大きく貢献している。 震災学習列車は、修学旅行等の教育旅行のニーズに対応し、三陸鉄道に乗車して列車移動しながら震災・防災について学ぶ企画で2012年6月に北リアス線、2013年4月に南リアス線で開始された。ガイドは三陸鉄道社員が行う。列車は1両から貸し出し、特別列車もしくは定期列車に増結し運行する。教育旅行を手掛ける旅行会社を通じた販売を行っている。これは修学旅行が広域移動を前提としており、三陸地域のみでのコーディネーションが困難なためである。2012年6月の運行開始から2013年5月までの実施及び予約件数は69団体、3,800人(うち南リアス線6団体、257人)である。震災後、観光団体による運賃収入が激減したが、震災学習列車の取組みにより改善しつつある。参加団体は教育機関が中心であり、修学旅行等の教育旅行の誘客に成功している。教育機関以外の団体としては水産加工業企業、JA等が挙げられる。当社によると、旅行会社やメディアからの注目度が高く、当社には多くの問い合わせ寄せられている。今後については、フロントライン研修、震災学習列車共に、短期的には、全国的な防災・減災意識の高まりとともに一定程度のニーズが継続するものと思われる。しかし、中長期的には、三陸地域の復旧・復興が進むにつれて、「被災地の視察」というニーズは減尐していくものと考えられる。従って、今後の三陸地域の交流人口の確保については、フロントライン研修、震災学習列車の良さを活かしつつ、三陸地域が持つ観光の魅力を訴求していく企画を立案・実行していくことで、集客・交流を活性化していく必要がある。 本事例では、当社が当初より旅行事業部門を有しており社員が添乗員の資格を有するものがいたため、募集型企画旅行の実施やオーダーメイド対応が可能となっていたという優位性があった。より大きな点としては、①地域全体にまたがる鉄道インフラ、②地域の自治体・事業者・住民からの信頼感、③商品開発から販売、運営業務を一貫して手掛けることができる旅行事業者としての経営ノウハウ、といった3つの要因から、当地域の観光プラットフォームの中で中核的な役割を担っており、今後三陸地域の観光活性化へのさらなる貢献が期待される。 '4(エッセンス'大切なこと( 当社の取り組みは、①震災前からの当社の事業存続に対する危機感の社内外での共有、②地域の自治体・観光関連事業者・住民からの信頼感と観光事業に関するノウハウの蓄積、③社内ノウハウを活かし、社内アイデアをベースにした商品企画を行える組織体制に特徴がある。多くの地域では着地型観光振興の中心を観光協会や観光連盟が担っている。近年これら団体が旅行業免許を取得するケースが増えているものの、商品開発から販売、運営業務に至る旅行業全般のノウハウは蓄積されておらず、実務に対応できない点が問題となっている。本事例は、地域の事業者が着地型観光発信の核となるDMC'Destination Management Company:観光まちづくり事業体(地域の知恵、専門性、資源を所有し専門的なサービスを提供する企業()として機能し、観光商品の企画開発、販売、運営を一貫して手掛ける「地域発DMCによる観光事業モデル」である。この問題の解消には、本事例のように「企画開発力」、「販売力」、「運営力」を備えた観光事業者、つまりDMCの機能を中核に据えることが不可欠である。

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