被災地での55の挑戦 ―企業による復興事業事例集―
35/146

22 「民芸品の持つ暖かな感じを活かしつつ、デザイン性の高いものを作りたい」と考え、2005年頃から張り子の「起き上がりこぼし」や「赤べこ」に独自のデザインやエッセンスを加えた、付加価値の高い作品の展開を目指した。 '3(チャレンジ'挑戦( デザインに関しては、伊藤理事長より若い世代の職人である早川美奈子氏(当組合専務理事。伊藤理事長の娘)に任せた。早川氏をメインデザイナーとし、伊藤理事長自身にはない、早川氏が持つ若さや女性ならではの感性を作品に反映させてみることとした。当初は雛飾り、端午の節句、干支にちなんだものなど、伝統をモチーフにした従来の民芸品に近いデザインが多かったが、震災以降は復興支援活動を行うアーティストやデザイナーとの様々なコラボレーションを通じ、アーティスティックなデザインや復興へのメッセージ色が強い作品を数多く生み出している。例えば、2012年1月に発表された「願い玉」は起き上がりこぼしをベースに、表情の代わりに唐草模様などの伝統的な日本の文様を全面に描くことで、レトロモダンな雰囲気を醸し出すとともに、唐草模様の「繁栄・長寿」のように文様自体が持つ意味を、作り手の願いとして作品に込めている。 デザインを重視した作品展開を進める中、当組合を一躍有名にしたのは「起き上がりムンク」である。「起き上がりムンク」はノルウェー出身の画家ムンクの生誕150周年に合わせ、2013年4月にスカンジナビア政府観光局が東京都の渋谷に期間限定カフェを開設した際に販売されたものである。ムンクの作品「叫び」は何度盗難されても必ず美術館に戻っていることをヒントに、震災復興の願いを込めて、何度倒れても起き上がる起き上がりこぼしになぞらえたものである。西会津町に縁のあるプランナーから製作の打診を受け、早川氏がデザインと絵付けを行った。ムンクの「叫び」と民芸品の意外な組み合わせがユニークと評判になり、当初製作した1000個は2日で完売した。カフェ終了後も注文や問い合わせが殺到し、入手まで1~2カ月待ちとなる状況になった。さらには国内だけでなくノルウェーはじめ海外でも販売される計画にある。 当組合では、こうした話題性の高い作品を手掛けてメディアへの情報発信力が高まることを通じ、新たな顧客の獲得等、次のビジネスに結び付けることを意識している。例えば当組合の民芸品を企業の販促品として使いたいという依頼や問い合わせが、震災前より増えてきているという。伊藤理事長は「メディアの取り上げにより問い合わせはかなり頂戴した。話題性があり、かつ見映えする作品をいかに出すかを重視している」と語る。 一方、絵付けの才能がある職人の育成が課題と伊藤理事長は考えている。絵付け職人は伊藤理事長含め10名と限られる上、最年尐は48歳の早川氏である。このため、若者の感性を民芸品に活かすとともに職人を志してもらえるよう、福島県内の美術系学部を卒業した若者に民芸品のデザインを任せ、福島県ハイテクプラザを交えて商品化の可否を検討するという取り組みを行っている。また、企業販促用などの大量生産が求められる商品については当該商品のデザインを構想する際に、デザインの後工程である絵付け工程を効率化させることを予め念頭に置いて検討する等、当組合では一層の製作プロセスの合理化を目指している。 '4(エッセンス'大切なこと( 当組合の取り組みは、民芸品の製作プロセスとデザインにイノベーションを導入し、工程合理化や高付加価値化、さらには情報発信力の強化を果たした稀有な例である。こうした作品の付加価値と情報発信力を活かし、西会津町の活性化に役立てたいとの構想を伊藤理事長は持っている。「作品展示ギャラリーや店舗からなる民芸品の集大成となる施設をつくり、国内外からお客を呼び込みたい」と、伊藤理事長は思いを語る。 願い玉と起き上がりムンク

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です