被災地での55の挑戦 ―企業による復興事業事例集―
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11 '2(本格的な復興に向けたインプリケーション 本事例集では復興に向けたチャレンジを続ける企業を中心に取り上げた。これらの企業は、厳しい事業環境に直面しながらも将来を見据え、「経営力の強化」、「失ったシェアの回復」、「新規の顧客開拓」、「新商品開発」、「新規事業の創造」といった課題にチャレンジしている。ここでは、これらの企業が復興に向けた歩みを加速させる原動力の本質を整理し、被災地企業へのインプリケーションとしたい。 ① ブレない経営判断の基軸を持つ 企業経営では既存の事業環境を大きく変えるような変化に直面することがあるが、その際、判断の拠り所となる経営の価値基準が重要である。今回の東日本大震災は大きな外部環境の変化であり、かつ予め予測できない類のものであったが、事例企業の経営者は自らの大事とする価値基準にしがたい意思決定を行っているケースが多い。例えば、小野食品㈱は「真摯に良いものにこだわる」いう当社の大事とする価値基準に立ち返り、その強みを活かせる市場・顧客にターゲットを絞った。また、㈱ハニーズは、時代の変化に柔軟に対応しながらも、「若い女性がお小遣い程度で買えるファッション性の高い洋服の提供」という基本コンセプトを守り続けている。 企業内で共有化される価値観があるからこそ環境変化に何をなすべきかというコンセンサスが生まれ、環境適応力の源泉となる。復興の局面では経営判断の基軸に「これだけは譲れない」という部分を持つことが何よりも重要である。 ② 社会的価値や地域との共生を大事にする 地域とのつながりや共生を重視している企業ほど復興を順調に進めていることが多い。㈱高政は、「会社が存続できるのは地域の人たちや従業員がいてこそ」という考えの下、生産を早期に開始し地域の被災者への食糧支援を続けた。地域との共生を大事にする当社の姿勢がメディアで報じられると、全国各地の消費者からの共感を呼び、早期の業績回復を実現した。㈱山岸産業は、震災を契機に地域とのつながりを改めて見つめ直したことで、地域の課題解決に結びつく新商品のアイデアを生み出し、新規事業の創造を実現した。また、㈱ウジエスーパーは、「食による社会貢献」という経営理念の下、震災翌日から営業を再開し、地域になくてはならないスーパーとして独自のポジションを築いた。社会的な価値を重視する経営理念は、自治体や仕入先、共同購入組織、地元企業、地域住民の共感と協力を生み出し、早期の営業再開を実現した。 単に企業利益のみを求めるのではなく、企業が拠って立つ社会や地域とのつながりを重視する姿勢は、多くの関係者の共感を呼び、1社だけでは解決し得ない課題の克服に繋がったのである。 ③ PDCAサイクルを回し続ける 本事例集では、優れたビジネスモデルを構築している企業を数多く取り上げている。小泉商事㈱は、産業用無人ヘリコプターを活用して東北地域の農業の生産性を飛躍的に向上させるイノベーションを起こし、高い評価を受ける会社であるが、当該ビジネスを構築する過程は失敗の連続であった。ただ、それで終わることなく、失敗の要因を分析し、再チャレンジするサイクルを数多く回すことで今の成功に辿りついた。また、㈱ビック・ママは、スーパー向けの衣料品補修ビジネスを一般消費者向けの小型店舗ビジネスに大きく転換させた会社である、最初から構想があったわけではなく、生き残るために試行錯誤を通じて課題克服に前向きに取り組んだ結果、現在のビジネスモデルに辿りつき成功を収めた。いずれも変化対応への持続力が優れたビジネスモデルを生み出したのである。

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