被災地での55の挑戦 ―企業による復興事業事例集―
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126 状化の影響などが事業所内で広範囲にわたり、全面的な復旧には本震から130日を要することになった。 経営トップがいわき事業所長に復旧に関することを全権委任し、復旧スケジュールに関わる人員確保や資材調達等に関する意思決定がスムーズに運んだ。また、クレハ錦建設㈱やクレハエンジニアリング㈱、その他多くの協力会社とともに社員がほぼ不休で対応し、当初の想定よりも早く全面復旧を果たした。7月下旪、最後に全面復旧にこぎつけた製造部の関係者たちのために開催された慰労会は、「よくぞやり遂げた」という達成感を関係者の間で共有でき、信頼と絆を育むことになった。 '3(チャレンジ'挑戦( 震災は、当社にとって自分たちの商品力を気付かされたきっかけとなった。当社の代表的商品である「NEWクレラップ」については、いわき事業所で生産する原料が不足し商品供給が制限されている間、小売の現場では他社製品で代替されていた。しかし、生産を再開して元通りの出荷体制が整うと、全国の小売店がすぐに取扱を始めてくれて、売上は直ちに回復した。一度落ちた売上を元に戻すためには相当苦労すると思われていただけに、自分たちの商品力について再認識した。また、当社ではリチウムイオン電池の部材に使用される接着剤を製造しているが、震災で供給できなかった時期に、携帯端末メーカーから直接問い合わせが入ってきたことがあった。そのメーカーは独自に調査し、部材の一次、二次サプライヤーを飛び越えて、原料メーカーである当社に対して供給再開の目途を直接確認してきたのである。 復旧への取り組みが一段落した後、当社は新しい投資に乗り出すことになる。「ふくしま産業復興企業立地補助金」や復興特区法の税制優遇制度と利子補給制度を活用して、いわき事業所内に食品包装材の原料となる塩化ビニリデン樹脂の新プラント増設工事や研究設備等の拡充などの投資を行い、地域との共生を図りながら価値あるモノづくりを進めることとした。 当社は、競争力を高めるためにこの戦略をさらに推し進め、いわき事業所をグローバル拠点として位置づけている。マザー工場であるいわき事業所は、研究所で開発された新製品の製造技術を確立して国内に供給するとともに、製造技術力をさらに高めて海外の工場を支援するという役割を担っている。同時にグローバルに活躍できる人財の育成拠点となっている。 '4(エッセンス'大切なこと( 当社の多くの製品は独自開発した技術であり、ライセンスインした技術は極めて尐ない。会社の規模に比すれば、当社は高機能材料から化学製品、医薬品など様々な製品を手掛けているという特徴を持っている。当社には、自社技術で世界に貢献しようというDNAが流れている。その背景には、いわき事業所は沿岸部ではなく、小名浜港から15kmほど離れた立地にあるため、大量生産によるコスト競争力の勝負には自ずと限界があるという事情もある。 いわき事業所は同地域で活用できる産業基盤、いわきで培った技術をベースにグローバル展開のマザー工場として同地域と切っても切れない関係にあり、復興の歩みを共にしている。福島第一原子力発電所の事故直後、当時の岩崎隆夫社長は、いわき市内がゴーストタウン化している状況を見て、同じいわき市に工場を持つ日産自動車の志賀俊之COOと話し合い、「地域のリーディングカンパニーとして、いわきに留まり続ける」と、お互い励まし合った。社員も生産ラインが止まっている間は地元でボランティア活動に従事するなど、地域とのつながりを意識して行動していた。当社では、元気に事業を継続することが当社を育んだいわきへの恩返しであるとの想いを新たにしている。

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