被災地での55の挑戦 ―企業による復興事業事例集―
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120 ールしたかった」と、当時の考えを語る。当社は1次のグループ補助金に採択されたほか、(公財)ヤマト福祉財団の「東日本大震災 生活・産業基盤復興再生募金」助成金、及び(公財)いわて産業振興センターの「岩手県被災中小企業施設・設備整備支援事業」無利子融資(高度化資金)を獲得した。当社は、これらの返済負担のない補助金・助成金と、無利子かつ据置期間も5年と長い制度融資を設備資金として確保し、大槌工場等の復旧に着手した。8月から工事が始まり、11月には冷蔵庫が復旧し、当社は事業を再開した。既存債務については、震災前から付き合いのあった当社事業計画をサポートする中小企業診断士とともに岩手銀行との協議を重ね、条件変更により2年間の償還猶予となった。岩手銀行の運転資金融資を得て、仕入れ等の資金に充てた。 '3(チャレンジ'挑戦( 2011年11月、当社は復旧を果たして事業を再開したが、必要最小限の投資に絞り込んでいたため、本格復興に向けては建物、機械設備等にさらなる投資が必要であった。大槌町においては、津波の被害によって水産物の冷蔵保管や冷凍加工を行う施設が大幅に不足しており、地域の水産業にとって当社の本格復興は重要な位置づけにあった。当社では、中小企業診断士のサポートを受けて本格復興に向けた事業計画を新たに策定し、岩手銀行他金融機関や自治体等との協議・相談を重ねた。 所要となる第二冷蔵庫の再建と加工施設(第一加工場)の新設の事業費は約8億円であった。資金調達として、2013年3月、当社は、岩手銀行と㈱日本政策投資銀行が共同で出資する震災復興ファンド「岩手元気いっぱい投資事業有限責任組合」より1億円の融資(务後ローン)を受けた。また、大槌町の復興交付金「水産業共同利用施設復興整備事業」から事業費の8分の7の補助を受けたほか、(公財)三菱商事復興支援財団からも5千万円の出資を得た。当社は再び返済負担のない補助金や、資本性の高い資金を得て施設を建設し、2013年11月に竣工を迎えた。完成により当社の施設能力は、冷蔵庫収容能力7,800t、冷凍加工処理能力120t/日と、震災前の水準に比べて同等以上となった。 こうして当社は地域において比較的早期の段階で復興を果たした。早期に復興した当社のメリットとして、新規の顧客が増えた点を伊藤常務はあげる。当地において復旧している冷蔵保管施設や冷凍加工工場が尐なく、伊藤常務は「飛び込みで新規の顧客が当社を訪れたこともあった。顧客からも当社の施設が非常にありがたく思われたようだ」と語る。獲得した新規顧客に対して、当社では熱心に営業をかけて取引維持に努め、現状でも新規顧客からの売上は全体の3割を占める。当社の業績に関しては、売上面では、震災後に新規顧客の要請に応じスルメやイナダなど取扱魚種を増やしたこともあり、2013年度決算では震災前の水準に達する見込みにある。 '4(エッセンス'大切なこと( 当社の事例は、早期に事業継続を判断し、中小企業診断士や金融機関等との連携・支援の下、補助金、助成金、制度融資、ファンドというような、返済負担がない等条件面で有利な資金を調達し、地域においていち早く事業の復旧にこぎつけた好例である。 償還猶予となった既存債務の償還再開や、震災前に比べ従業員が半減してしまった等の課題はあるが、当社では現在の設備・人員に合わせた仕事を懸命にこなし、まずは借入金の削減を目標に取り組んでいきたいとしている。「新規を含めた顧客の維持など、当社が今できることをしっかりとやっていきたい」と伊藤常務は語る。 新設した第一加工場

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