被災地での55の挑戦 ―企業による復興事業事例集―
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116 前より事業協同組合で指導を受けていた宮城県中小企業団体中央会に相談したところ、専門家派遣事業の存在を教えてもらった。そして、同中央会の助言により、中小企業庁「地域力連携拠点事業」の専門家派遣を受け、派遣されたITコーディネーターの支援により、見積依頼への迅速かつ確実な回答を可能とする「見積回答システム」を2009年夏に構築した。同システムにより、3日を要した見積作成が数時間へと劇的に短縮され、ピッキング(仕分け)業務など他の作業時間に余裕ができたことからミスが激減した。当社に対する評価や信頼が向上し、受注は同業他社を上回るとともに、新たな顧客との取引にも繋がった。 '3(チャレンジ'挑戦( さらに当社では、みやぎ産業振興機構の「専門家派遣制度」を活用し、2010年に「バーコード検収システム」を開発、仙台市産業振興事業団の「専門家派遣事業」を活用して「仕入発注管理システム」を開発する等、各産業支援機関の専門家派遣制度を積極的に活用し、企業の業務とシステムに理解の深い専門家であるITコーディネーターに、当社のシステム開発に携わってもらった。業務システム開発に際しては、業務プロセスのうちシステム化する部分と手作業による部分とに区分し、社員誰もが作業に従事し、かつ、システム管理しやすいよう工夫するとともに、システム開発コストの低減を図っている。こうして当社はITシステムを通じた業務改善を進めていった。 震災により本社屋の壁崩落や商品在庫棚の倒壊などの被害があったほか、石巻市の営業所は津波により1階部分や倉庫が損壊した。石巻営業所は依然として正常な営業が困難な状況だが、本社は社屋改修や商品在庫棚の倒壊防止等の改修策が講じられ営業を再開している。一方、2010年に開設した八戸営業所については耐震措置を講じていたことが幸いし、被害はなく、同業他社の供給機能が滞る中、八戸市周辺の工場復旧に伴うねじ・ボルトの需要増に対応することができた。 震災を契機に当社のシステム開発にも新たなニーズが生まれた。当社に保管していた顧客特注品のボルトの図面類が地震や津波によって紛失・散逸してしまい、一部の図面の控えは関西地方所在の当社取引先の問屋に保管されていたものの、ボルトにかかる仕入値や売値の情報は残っていなかった。顧客特注品のボルト図面類の管理を強化し、顧客からの信頼感向上を図るため、2012年度にみやぎ産業振興機構の「復興相談助言事業」を活用し、従前のITシステム開発に関与したITコーディネーターの派遣を受け、特注品ボルトの図面番号、仕入値、売値、納期をデータベース化する「図面見積管理システム」の開発に取り組み、2013年夏に完成した。 この他、2013年度にもみやぎ産業振興機構の「専門家派遣制度」を活用し、宮城県中心となっている営業エリアをインターネットの活用で認知度を高めることで、広く県外へ販路を広げていきたいと考えている。ホームページの改定についてITコーディネーターの助言を受け、「ボルト ねじ」で検索された際に当社が上位にランクされ、「ねじ・ボルトに関しては当社」と認知が浸透することを狙っている。 '4(エッセンス'大切なこと( 当社の佐藤社長は、「ITシステムの導入に際し、自社にない知見を持つIT専門家からの支援は非常に有効だった」と分析する。ITシステムの導入は、他社との競争力強化が図られて自社の業務効率化に資するものである一方、顧客に対しても品質や納期などで高い満足と価値の提供にも繋がるものである。 佐藤社長は、「商品の単なる提供に止まらず、お客様に『ハート』をもってきめ細かく対応し、お客様の満足を高めることにより次の取引や他のお客様との取引に繋げていきたい」と語り、これからも不断の取り組みを続けていく。 復旧後の本社社屋

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