被災地での55の挑戦 ―企業による復興事業事例集―
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112 震災後、水産加工を手掛ける被災企業のうち震災前より設備能力を拡大させている企業は多い。ただ、販路開拓や人材確保等の面で課題を抱え、設備稼働率が伸び悩み、経営上の課題となっているケースも尐なくない。しかし、当社は過大な設備投資を控え、債務の圧縮を図るとともに、①設備稼働率の重視、②適正な販売計画や在庫管理計画に基づく資金管理の効率を重視した営業スタイルへの転換を図ったのである。 '3(チャレンジ'挑戦( 自然を相手とする水産加工業は、安定的な原料調達が容易ではないという課題に加えて、漁期が決まっているため、凍結機等の設備稼働率維持が難しいという特性がある。繁忙期である漁期はフルに設備を稼働させる一方、それ以外の時期はどうしても稼働率が落ちてしまう。当社も例外ではなく、サンマやイサダが捕れる夏の数カ月間以外は、凍結機がフル稼働しないことが多かった。そこで、震災後はサンマに関わらず、サバ、スルメ、イワシなど、近隣の浜で水揚げされる魚種はほぼ全て扱うようすることで凍結機の回転率向上を図った。大船渡地域の水産加工業者は他地域と比べて復旧が比較的早く、当社も震災から半年後に営業を開始している。その結果、震災後に原料調達先を確保したい卸売商社や水産加工会社から直接、新規取引の相談を受けることが多かったという。早期復旧による新規顧客の増加が取り扱い魚種の多様化をもたらし、設備回転率の向上に結び付いたのである。これ以外にも、漁閑期に、サンマの塩蔵加工、イカのスーパー向け総菜用の加工、釣り餌用のイサダの加工など、簡単な加工業務を行い、業務の平準化を図るといった改善策も講じた。 ただ、魚種を増やし、凍結の効率を良くすることは、他方で大量の在庫を抱えるリスクが付きまとう。震災前の当社は保管庫能力に余力があったことから、過剰な在庫を保有し、結果として不良在庫を抱えることも尐なくなかった。加えて、原料の買掛期間が長くなり短借の利息負担が増える結果、利益面が圧縮されることもあった。この問題を解決するには、適正な在庫管理と販売計画に基づく営業が重要となる。そこで、震災後は、①経費や運転資金の負担を考え多尐販売価格を落としても販売する、②保管後直ぐに購入してくれる顧客には、50~60尾単位の小さいロットでも販売する、③浜に揚がった原料を購入前に販売先に伝え、購入の意向を確認して購入するようにした。その結果、不良在庫が減り、収益性も改善しつつあるという。菅原社長は、「保管庫を大幅に縮小したことで在庫の効率化に迫られた。震災はつらい経験であったが、設備能力をスリム化して効率よく経営を行っていくきっかけを提供してくれた」と語る。 当社が属する水産加工業界は大きく2つに分かれる。第一が浜に揚がる魚を中心に購入し、冷凍して販売する会社。第二が加工に力を入れ、2次製品、3次製品を製造販売する会社。当社は60年間、前者のスタイルを続けてきた。今後もこのスタイルを変えるつもりはない。ただし、販売面では海外への輸出に力を入れる。今はコンテナ1個単位で輸出できるようになり、価格面で折り合いがつけばどのような魚種でも輸出できる時代。当社は、魚に対する国内の需要が縮小する中、その打開策として外に目を向けて、海外の販路を拡大していく道を今後は模索していくという。 '4(エッセンス'大切なこと( 作業現場の風景 当社の復興は従前のビジネスモデルを維持しながら業務プロセスを改革していく歩みであった。本事例は、適正な在庫管理とそれを可能にする営業が両輪として機能することで設備回転率の向上が実現され、利益率の向上に繋がっている好例である。菅原社長は、「サンマの水揚げ量が尐なく魚価高が続いているが、効率よく無駄なく経営していくことを今後も目指したい」と更なる効率化に向けた企業努力を推し進める。

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