被災地での55の挑戦 ―企業による復興事業事例集―
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96 した壁材の実用化について」というテーマで岩手大学と共同研究契約を締結するとともに、2008年には、(公財)いわて産業振興センターの「いわて希望ファンド地域活性化支援事業助成金」から196万円の助成や、(公財)さんりく基金から120万円の助成を受けた。モニター施工の実施により効果を確認し、本格的な生産に向けた検討に入った。産業廃棄物を取り扱うため場所の確保が難航したが、ドックとして利用されていた空き工場を借りることができた。製造プラント導入契約締結やカキ殻を工場内に搬入するなど、2011年5月の稼働に向けて着々と準備を進めた。 '3(チャレンジ'挑戦( 震災は事業化に大打撃を与えた。工場は機械の設置前だったが、搬入した原材料のカキ殻は津波に流された。当社本社は2011年6月に復旧したが、カキ殻漆喰の事業化は、原材料供給源となるカキ養殖施設が大きな被害を受けたこと等で見通しが立たなかった。菊池会長は事業継続の判断に非常に苦しんだが、「環境配慮に役立つこの取り組みを復興の一助としたい」という強い決意により継続を判断し、尐しずつ製品試験とモニター施工を重ねた。 2012年春、当社HPからこの取り組みを知った東京の設計業者から、大手ホテルチェーンの新築設計コンペにカキ殻漆喰を用いたいとの要請を受けた。これに対応するべく当社は生産体制の整備を進めることとした。製造プラントの準備には時間と資金を要するため、取り急ぎ本社裏にプレハブを建て、焼成工程は陶芸窯を用いるなど手作業に近い形で製造した。カキ殻漆喰は2013年竣工のホテル2棟の内装に採用された。出荷量は数百kgと尐なかったが、この納品に向けた取り組みが結果的に事業化を加速させた。 本格的な生産体制構築については、幸い本社隣接地の敶地を借りることができ、同地に工場建屋を建設した。製造プラント設置についても2012年8月から再開し、1年半をかけて完成した。貝殻、特にカキ殻を材料とする製造プラントはほとんど前例がなく、機械一台の導入にも試験を繰り返して調整を重ねた。マーケティングは震災前に上記「いわて希望ファンド」申込みに際して実施した他、展示会出展や左官業界へのヒアリング等でニーズ把握に努めた。また、大船渡商工会議所を介して中小企業診断士からキャラクター作成等の助言を受けた。こうして2013年春、有害物質の吸収等に優れたカキ殻漆喰(製品名「海と太陽のめぐみ」)は市場に出た。 カキ殻漆喰の施工実績はモニターを含め約30件で、売上規模はまだ小さい。当社は2014年度から大船渡市で施工実績を積み、徐々に岩手県内、東北地域、そして全国へ販売を広げたいとの構想を持っている。「まずは大船渡市で、地元から出たカキ殻を使った地元製品との認知を高めたい。建物の内装材として、特に子供や高齢者のいる家庭、病院、学校など、清浄な空気が必要な建物に採用されるよう働きかけたい。加えて、行政が復興のために地元製品をサポートするという姿勢が不可欠である」と菊池会長は語る。 '4(エッセンス'大切なこと( 当社のカキ殻漆喰の事業化は、産業廃棄物を材料に環境配慮に優れた製品を生み出すことにより、廃棄物処理と環境浄化という二つの課題解決を目標とし、大学との連携や、産業支援機関はじめ各機関からの助成・助言等を受けながら、製品試験、モニター施工、マーケティング等の準備を着実に重ねていき、強い決意を持ってゴールに向けて歩を進めたものである。 大学との連携について、菊池会長は「数多くの先生と意見交換を行い、情報を得ることが大事である。大学にはシーズがたくさんあるが、使われないまま眠っているものも多く、大いに活用し地域産業の発展に活かしたい」と語る。 カキ殻漆喰「海と太陽のめぐみ」

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