被災地での55の挑戦 ―企業による復興事業事例集―
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94 の開発によって1時間に大幅に短縮するとともに、腰をかがめての作業など肉体的に厳しい塩蔵作業の自動化に成功した。2007年の製品化以降、岩手県や宮城県の漁業者の支持を得て累計で約500台出荷している。 '3(チャレンジ'挑戦( 当社では、津波によって自社3工場のうち1つが全壊し、残り2工場も大きな被害を受けたが、工場の外壁を社員自ら補修し、機械設備は中古を導入して復旧を果たした。 復旧後は、自然エネルギーに対する評価、停電時でも使用可能という利点、さらには被災地支援もあり全国から「クラフトマン」の注文が寄せられるようになり、2011年5月末頃から「クラフトマン」の出荷を再開した。また「しおまる」についてもワカメ漁の再開に伴い、同年6月頃から岩手県や宮城県の漁業者から多く注文が寄せられた。震災後、当社の売上は「クラフトマン」と「しおまる」の需要増によって増加し、震災前の売上が約1億5千万円だったところ、震災以降の3年(2011~2013年)は2億円から4億円で推移するようになった。石村社長は「改めて自社製品を持っていて良かったと感じた。下請仕事だけなら当社は震災から立ち直れなかったと思う」と振り返る。 現状、当社はいわば特需にて売上増となっているが、売上の7割を占める「しおまる」は需要先である漁業者にはほぼ行き渡り、加えて製品自体が壊れにくく当面は買替需要が発生しないため、今後の収益増加に向けて、当社は次の手を模索している。主力のストーブに関しては、家庭用分野と農業分野の台数を伸ばしていくことを考えている。家庭用分野については、家庭用ストーブの国内需要のうち約10,000台は海外からの輸入薪ストーブ製品が占めているといわれており、当社ではその代替需要をどれだけ取り込めるかを視野に入れている。当社製品は薪と木質ペレットの併用、無電力、岩手県工業技術センターの協力による洗練されたデザイン等の特徴があるが、当社ではさらに顧客が求める機能を付加し改良を重ねることにより、より付加価値と顧客訴求力の高い製品を開発していくことを検討している。海外市場参入についても、国内暖房器具大手である(株)トヨトミの子会社を通じて米国に当社製品をサンプル出荷するなどの取り組みを行っている。 また農業用分野は、ビニールハウス等向け製品(「ゴロン太」)について、燃焼時間を長くした製品を開発中である。現在の「ゴロン太」も、ビニールハウスを夜通し加温する際にストーブの火を見張るのが大変という農家のニーズを汲み、長時間の燃焼が可能、かつ化石燃料より安価な薪により燃料代を抑えることをコンセプトに開発されたものである。さらに燃焼時間を長くしてほしいという農家のニーズを踏まえ、大きな薪の燃焼効率向上など一層の高付加価値化を狙う。石村社長は「顧客のニーズに沿って開発すると、売れる製品が作れる」と語る。当社では営業・販売担当者を製品分野毎に1名置き、顧客のニーズをきめ細かく汲み取る体制を構築している。 '4(エッセンス'大切なこと( 当社は、下請依存から脱却して自社製品の開発・製造に取り組み、顧客のニーズを汲み上げて付加価値の高い製品を開発した。石村社長は、「自社製品の開発は、実際はなかなか難しい。当社の場合、自分を含め機械設計や溶接技術等に詳しい人材がいたから可能だっただけ」と語る。ただし、「そういう人材が自社にいなくても、何を目指すかという目標を設定し、適切な人材を採用すればどの会社も可能だ」と言葉を続ける。 当社は、自社が成し得た下請依存脱却を横展開しようとしている。震災後、周辺の同業者10社程と「新製品研究会」を立ち上げた。下請依存からの脱却を目指し、付加価値の高い仕事の取り方や、海外展開を視野に入れた経営計画の立て方に地域全体で取り組んでいる。 「クラフトマン」

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