被災地での55の挑戦 ―企業による復興事業事例集―
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90 ート事業の再建と並行して、収益力の向上を図るため最終完成品の製造販売という難易度の高い事業創造に取り組み、自社製品の組立事業を開始。被災の経験を活かした新たなものづくりにチャレンジしている。 '3(チャレンジ'挑戦( 当社が震災後に開発した製品として電動アシスト三輪自転車とハイブリッド発電機がある。開発のきっかけは「災害時に必要なものは何か」を考えたことだ。山岸取締役は「震災をきっかけにこれまでの守りの姿勢を改め、『自らできることをやっていく』という考え方に大きく変わった」と語る。震災前は関東圏の取引先が中心で、地域とのつながりが希薄であったが、多くの地域住民から励まされ、公的支援を受けて事業を再建できたことは、大槌町という土地で経営することの意義を改めて考え直すきっかけを与えた。その結果、地域とのつながりを大事にし、地域の課題を解決するビジネスを志向するようになったという。 震災直後、燃料不足やがれきが散乱している状況下において自動車は最適な移動手段ではなかった。二輪の自転車も荒れた道でちょっとした荷物を運ぶには不安定な面があった。そこで、思いついたのが荷物運搬の容易な電動アシスト三輪車であった。大震災では、東北電力管内で440万件の停電が発生し、復旧率が5割に達したのが30時間後、8割に復旧するまでに3日間以上を要した。大槌町の場合は早い場所でも20日間以上を要した。この経験から一般家庭でも非常時に備え、自前の電源を確保する必要性を痛感したという。この経験を通じて一般家庭でも使用可能な小型の発電機を開発しようと思いついた。災害時に皆が必要とする製品を自ら作ってみたいという思いは、電動アシスト三輪自転車と、LPガスでもガソリンでも使用可能なハイブリッド発電機の誕生に繋がっていった。 しかし、それまで部品メーカーだった当社が最終完成品を手掛けるのは容易ではない。ビジネス上必要な製品開発力、販売力が圧倒的に不足しているからである。2つの製品の開発・設計は、当社の山岸一社長の知り合いに元ヤマハ発動機の技術者(中国在住)がいたことで、全面的な協力を仰ぐことができた。震災直後は同氏の協力を得ながら中国の協力企業で部品製造を行い、当社で最終組立・販売を行う事業スタイルで進めてきた。販売力の面では課題も多いが、北上オフィスプラザのコーディネート事業を通じて「中小企業総合展2013」への出展を行う一方、防災用品として自治体からの引き合いも多い。ハイブリッド発電機については販売力を有するエネルギー関連企業との協力を模索しており、エネルギー事情の悪い海外への展開も今後は期待されている。現在、電動アシスト三輪自転車の部品の一部は、花巻市起業化支援センターの新事業創出支援事業を通じて使用料の免除を受けた使用料賃貸工場で組立しているが、それ以外は中国で製造している。将来的には両製品の全部品を大槌町の地元製造業と連携して一から製造していくことを目指している。山岸取締役は「沿岸地域でもモノづくりという選択肢があってもよい。プレート事業が軌道に乗れば、大槌町で製造ラインを整え、新規雇用と話題性を提供していきたい」と語る。 '4(エッセンス'大切なこと( 当社の規模で最終完成品を手掛ける企業は珍しい。新製品開発のアイデアは震災を契機に大槌町とのつながりを見つめ直したことから生まれ、外部リソースの活用によって不足する製品開発力・販売力を補っている。山岸取締役は、「今後は地域とのつながりを深め、『オール・おおつち』で製品の製造販売を手掛け、大槌町という地域にモノづくりという産業を根付かせていきたい」と今後のビジョンを語る。 ハイブリッド発電機 電動アシスト三輪自転車

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