復興の教訓・ノウハウ集

復興の教訓・ノウハウ集

災害からの復旧・復興過程で生じる課題に対し、東日本大震災における状況とこれに応じた官民の取組事例、専門的知見も踏まえた教訓・ノウハウを記載しています。(令和3年3月公表)

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販路開拓・新事業の立ち上げ

事例名 企業連携の促進
株式会社バンザイ・ファクトリー
場所 岩手県陸前高田市
取組時期 応急期復旧期復興前期復興後期
取組主体 株式会社バンザイ・ファクトリー、株式会社富士通

取組概要

 株式会社バンザイ・ファクトリーは、2005年12月に創業登記し、2006年から三次元ITを活用した木工製品の研究開発を岩手県盛岡市でスタートしていた。しかし東日本大震災の発生を機に、被災地の復興を目的として、岩手県陸前高田市に工場を移転。独創的なアイデアに基づいて、星形のパスタ麺や木製スマートフォンケース等の製品を開発・販売しながら、岩手の地域資源を活用した商品開発にも注力している。
 また、「商品開発の独創性」「高い技術力」を活かすために、企業とのマッチングや産学連携を通じて、新たな製品開発に取り組むなど、産学連携による技術力と人材確保を実践しながら事業を展開している。

具体的内容

東日本大震災をめぐる同社の動き

 株式会社バンザイ・ファクトリーは、東日本大震災前から岩手県の木・漆・鉄器・ITをテーマにした会社として岩手県盛岡市で活動していた企業である。2007年には岩手県産の高級木材を使用した杯が岩手県ビジネスプラン・グランプリにてグランプリを獲得しており、技術力には元から定評のあった企業である。その後は業務拡張のため、秋田県にも進出した。
 秋田県田沢湖畔に工房を構えて事業を展開していた当時、東日本大震災が発生した。同社は、震災を機に、恩人や友人が多く住む岩手県陸前高田市を支援するために工房を移転することとした。

地域資源を活用した新商品の開発

 工房を陸前高田市に移転した後は、「切り口が星型のパスタ」や「木製スマートフォンケース」、南部鉄器の馬蹄鉄を装着した「福おちょこ」の開発に取り組むなど、岩手県の地域資源を活用した製品開発に取り組んだ。
 2015年には白砂糖や醤油、精製塩を使わない、健康に配慮して作られた「三陸甘露煮」を発表。甘露煮の種類は、大船渡・陸前高田の地域資源であるワカメやホタテ、鮎などを使用しており、ある直販店でメニュー販売しながら実食してもらうなど、商品の改良を重ねてきた。その結果、三陸甘露煮が復興庁主催の「「新しい東北」復興ビジネスコンテスト」のビジネス部門で大賞を受賞するなど、大きな注目を集めた。

産学連携・企業マッチングによる高付加価値商品の開発

 また社長が三重大学出身であること、同社の経営陣が前職時代に医療情報システムを開発していた際に三重大学とやり取りしていたことが縁となり、三重大学との産学連携を開始させ、さまざまな人の「握りやすさ」のデータを用いた分析を行い、ユーザーの握り型に合わせた木製の杯「我杯」の開発に取り組んだ。
 さらに、この研究成果を活用して、現代では最もつかむ、握るという行為が多いとされるスマートフォンケースの形状設計を武蔵野美術大学と共同で行った。木製のケースの握りやすさを意識し、落としても衝撃を和らげ、指の特徴を踏まえたデザイン性の高いスマートフォンケースの開発を進め、製品化された。この製品は内外から高評価を得ており、2017年には木を使うコンテストで国内最大規模の「日本ウッドデザイン賞」で入賞を果たすなど、非常に高い評価を得ている。現在制作されたケースは、ネットを中心に販売されており、生産は受注に対して二か月待ちの状態となっているという。
 また、復興庁の地域復興マッチング「結の場」を活用し、大手企業の富士通株式会社に製品開発について技術面でのアドバイスを要望したところ、富士通の有償開発特許「芳香発散技術」を活用して、香水などをチップにつけると長時間香りが漂う木製iPhoneケースの開発・製造に取り組むことになった。同社は1年間の試作期間を経て、(公財)さんりく基金による「平成30年度 県北沿岸地域新商品・新サービス開発事業」を活用して商品化を行った。

産学連携・企業マッチングによる高付加価値商品の開発

写真:武蔵野美術大学と共同開発したiPhoneケース
(出展:バンザイ・ファクトリーホームページ)

産学連携・企業マッチングの意義

 ユーザーの使い勝手を考慮した製品のデザインを手がける企業やデザイン事務所の多くは関東圏に集中しており、地方に立地する事業所は少ない。同社は、産学連携の枠組みとしてICTを有効に活用し、技術やデザイン面での支援を受けることができた。また、大企業とのマッチングも、中小企業にはない技術や情報、販路などの経営資源を活用する有効な機会となる。
 同社は、自社に不足している技術力やデザイン力を大学や企業との連携で補うことにより、高付加価値商品の開発につなげている。

<出典>(他の事例集等への掲載)
・高橋和良ほか(2019)「産学連携による過疎地・地方でのものづくりと地域ブランド商品の創出」『産学連携学』15(1)41-49.
・復興庁「私たちが創る 産業復興創造 東北の経営者たち」(2016年2月)
https://www.reconstruction.go.jp/topics/main-cat4/sub-cat4-1/20160210094116.html

・東北復興新聞「バンザイ・ファクトリーの「三陸甘露煮」大賞に、復興庁ビジネスコンテストで/陸前高田」(2015年10月)
https://tohkaishimpo.com/2015/10/02/61224/

・Web東海新報「(株)バンザイ・ファクトリーが香るスマホケース開発、富士通の特許技術活用/大船渡」(2018年10月)
https://tohkaishimpo.com/2018/10/30/226409/
<活用された制度>
・地域復興マッチング「結の場」(復興庁)
・新規ビジネス等支援事業(ハンズオン支援専門家プール事業)(復興庁)
・「平成30年度 県北沿岸地域新商品・新サービス開発事業」(公益財団法人さんりく基金)

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