復興の教訓・ノウハウ集

復興の教訓・ノウハウ集

災害からの復旧・復興過程で生じる課題に対し、東日本大震災における状況とこれに応じた官民の取組事例、専門的知見も踏まえた教訓・ノウハウを記載しています。(令和3年3月公表)

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販路開拓・新事業の立ち上げ

事例名 被災経験を生かした新事業の立ち上げ 株式会社ワンテーブル
場所 宮城県多賀城市
取組時期 応急期復旧期復興前期復興後期
取組主体 株式会社ワンテーブル

取組概要

 株式会社ワンテーブルは2016年に宮城県名取市で創業した企業であり、社長自身の被災経験を基に、命を豊かにする新事業を創出するために設立された。
 東日本大震災発災後、社長自身が被災者となり避難所で見たものは食料として配給されていた乾パンであった。硬いものを食べるのが困難な高齢者やアレルギーを持った子どもが水もないなかで乾パンを食べる光景を見て、世界初となる製造から5年半の長期間保存可能で栄養バランスに配慮し、誰もが食べやすいゼリー状の食品備蓄食「LIFE STOCK」を開発した。
 2019年に名取市から多賀城市に本社を移転し、津波・原子力災害被災地域雇用創出企業立地補助金を活用して「LIFE STOCK」の生産を行う工場を設立した。

具体的内容

避難所での経験

 株式会社ワンテーブルの島田社長は、大学在学中に教育ベンチャーを創業し、地域おこしイベント事業を始めた。東日本大震災1年前に、東北出身の企業家とのつながりを活かして、宮城県で地元農家と連携しながら新たな事業を手掛けていた。
 東日本大震災が発生し、社長自身が被災者でありながら避難所を回り支援物資の配送等に取り組む中で、避難所では水がないなかで、固形食である乾パンを苦労して口にする高齢者や小麦アレルギーにもかかわらず食糧がないため乾パンを口にする子供を目の当たりにして、「誰もが安心して口にすることができる新たな備蓄食の開発が必要である」ことを痛感した。

水なしでも食べられる備蓄食の開発

 この被災経験を活かして、代表は新たな備蓄食として「LIFE STOCK」を開発した。これは、常温で製造から5年半備蓄できるゼリーであり、カロリー以外にもビタミンや食物繊維などの栄養バランスにも配慮した、子ども・高齢者、療養中の被災者でも口にしやすい、新しい備蓄食として大きな注目を集めている。
 本製品は、品質保持のために、長期保存が可能となるようアルミを含むパウチ型パッケージを採用している。
 さらに製造に当たっては、食品の長期保存を可能とする当社オリジナル技術ブランド「TOKINAX」を活用している。これは、充填技術、アルミを含む4層構造のフィルムによる包装素材と形状、レシピコントロール技術を駆使した会社独自の技術である。この技術開発と徹底した製造工程の衛生管理により、製造から5年半の賞味期限を実現することができた。

水なしでも食べられる備蓄食の開発

写真:備蓄ゼリー「LIFE STOCK」
(出典:ワンテーブル ホームページ)

新産業の創出による地域経済の活性化

 備蓄ゼリー「LIFE STOCK」の量産に向け、本社を宮城県名取市から多賀城市に移転し、あわせて経済産業省の津波・原子力災害被災地域雇用創出企業立地補助金を活用して工場を新設した。工場は2019年から稼働し、地域住民の雇用確保や地域経済の活性化に貢献している。
 被災地の復興のため、名取市に「ROKU FARM ATALATA」、七ヶ浜町に「SHICHI NO RESORT」などの商業施設をプロデュースし、街のにぎわいづくりや被災地での雇用確保を通じて、被災地の経済活性化に貢献し被災前以上の集客を実現している。

新産業の創出による地域経済の活性化

写真:ROKU FARM ATALATA
(出典:ROKU FARM ATALATAホームページ)

防災をテーマにした新事業の展開

 ゼリー状の備蓄食を開発したことで、同社には内外をはじめ、世界から大きな注目を集めた。宇宙に関する事業を手掛ける宇宙航空研究開発機構(JAXA)とパートナーシップを組んで「防災×宇宙」の視点から、新たな事業創出と社会課題の解決に取り組むなど、他業種との連携も積極的に行っている。
 また、地域の防災安全度を診断し、備蓄状況をシミュレーションするシステムを開発中である。この事業は、医療法人やシステム開発会社をはじめ数十社より出資を受けて進められており、新事業の立ち上げを目指して開発を進めている。
 また、生産技術を生かすためにも、他企業からのOEM受け入れについてウェブサイトを通じてアピールしており、他企業との連携を意識した事業展開を行っている。

<出典>(他の事例集等への掲載)
・復興庁「東日本大震災から9年~持続可能な未来のために~」(2020年2月)
https://www.reconstruction.go.jp/topics/main-cat4/sub-cat4-1/jireishu2019.html

・Makuake「3.11の極限状態を教訓に生まれた「5年保存備蓄食」防災の日に先行販売」
https://www.makuake.com/project/onetable/

・株式会社ワンテーブルウェブサイト
<活用された制度>
・経済産業省 津波・原子力災害被災地域雇用創出企業立地補助金
<事業費>
・6億円(うち国費8千万円)

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