復興の教訓・ノウハウ集

復興の教訓・ノウハウ集

災害からの復旧・復興過程で生じる課題に対し、東日本大震災における状況とこれに応じた官民の取組事例、専門的知見も踏まえた教訓・ノウハウを記載しています。(令和3年3月公表)

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中間支援組織・ネットワーク

事例名 公益社団法人3.11みらいサポート(旧:石巻災害復興支援協議会)
場所 宮城県石巻市
取組時期 応急期復旧期復興前期復興後期
取組主体 公益社団法人3.11みらいサポート(旧:石巻災害復興支援協議会(登録団体:344団体))

取組概要

 3.11みらいサポートは、東日本大震災発生後に発足した「NPO・NGO連絡会」の事務局機能からスタートし、2011年5月に前身の「石巻災害復興支援協議会」として設立された。応急期には、被災者支援として石巻に駆けつけたNPO・NGOが行政や災害ボランティアセンターと連携して円滑に活動を行うための調整やサポートを行なった。
 緊急期を過ぎた後、石巻市の主体を支える方向へと能動的に転換させ、翌年11月に「みらいサポート石巻」に改称し、体制を整備して2015年7月に公益社団法人となった。更に被災地域や環境の変化に合わせ、「震災支援の連携」から「震災伝承の連携」へ活動をシフトし、「つなぐ 3.11の学びを生きる力に」をミッションとして、石巻市や東北広域の伝承連携体制をサポートしている。アプリを使った東北初の防災プログラムや、語り部の連携、オンライン伝承、民間による伝承施設の新設など、住民主体の力を引き出しながら、震災後のそれぞれのフェーズに即した活動を行っている。

具体的内容

石巻災害復興支援協議会による情報共有・活動調整

 東日本大震災発災後、石巻災害復興支援協議会は石巻市を拠点に緊急支援に関わるNPO・NGOや専門的なスキルを持つ個人が連携し、有機的で効率的な活動調整の場づくりを行った。2012年5月時点で344団体が登録し、社会福祉協議会が運営する災害ボランティアセンターで121,969名、NPO・NGOで158,298名の述べ28万人を上回る大規模な受け入れが可能となった。
 同年3月20日のNPO・NGO連絡会以来を契機に、各団体の情報共有と被災地の課題に応じた支援活動を行うため、毎日協議会が開催された。
 協議会を通したNPOの活動は、同日に石巻市災害対策本部に報告され、公的な連携を生み出す契機となった。協議会と石巻市役所、自衛隊により毎週開催された「3者会議」では、炊き出しの重複回避や支援物資の共有、避難所から応急仮設住宅への支援移行など、より具体的な情報共有と活動調整が行われた。この協議会により、被災地内外の多くのNPO・NGOが情報を共有し、避難所閉鎖までの炊き出しプロセス全体を調整して878,000食が提供されたり、応急仮設住宅への物資支援方針原則を定めるなど、全体的な活動調整が可能となった。
 2012年11月に団体名称を「石巻災害復興支援協議会」から「みらいサポート石巻」に改称し、復旧・復興過程が進む中、日本全国の災害後の被災者支援連携事業や、被災地域の主体的な地域づくりをサポートする方向に転換した。2019年4月には「3.11みらいサポート」へ再度改称し、2011年から継続してきた語り部や伝承館の運営の「震災伝承」の他、防災教育や、東北3県の民間伝承体制づくりへと活動をシフトしている。

被災者支援連携事業(関係機関との調整、緊急派遣)

 応急・復旧期以降、日本各地の災害対応の連携サポートを行うほか、NPO・NGOや関係機関との調整、記録・講演会や、中間支援機能のヒアリング調査・検証に取り組んでいる。

・取組事例:「仮設サロン支援連絡会議」
 石巻市で応急仮設住宅への支援を行うNPOの情報交換・連携を目的とする「仮設サロン支援連絡会議」を、2013年3月の終了までの間に計12回開催した。訪問支援を行う石巻市社会福祉協議会と、集会所でのサロン活動等に取り組むNPOの10~20団体が参加し、市外で支援を検討する団体に対して石巻市の現状や活動にあたっての配慮事項をまとめた「石巻市仮設住宅団地での活動に関するご案内」を作成するなど、支援方針を共有した。2013年4月から1年間は、石巻仮設支援連絡会準備会を社会福祉協議会と毎月共同開催し、2014年4月からは、社会福祉協議会が事務局を引き継ぎ、いしのまき仮設支援連絡会として2020年も継続している。


・取組事例:緊急派遣
 東日本大震災の石巻市でNPO・行政・災害ボランティアセンターとの調整やコミュニティづくり、震災伝承を実施した経験を生かし、被災者支援連携事業の一環として緊急支援を行っている。

・2016年 熊本地震(益城町、御船町、南阿蘇村等)
火の国会議のサポート、避難所調査、空撮、重機ボランティア派遣

・2018年 平成30年7月豪雨
NPO連絡会の支援、空撮、3.11メモリアルネットワーク若者ボランティア活動

・2019年 令和元年東日本台風
NPO連絡会の支援、空撮、3.11メモリアルネットワーク若者ボランティア活動

伝承・交流事業(震災伝承へシフト)

 「語り部」や、防災アプリを使ってまちを巡る「防災まちあるき」、スタッフがバス・乗用車に同乗して震災前の様子や震災直後の状況、復旧・復興工事等について案内する「車中案内」、学生向けの体験学習「語り部とあるく3.11」等の震災伝承プログラムを提供しているほか、新型コロナウイルスによる訪問者激減に対応しオンライン語り部も積極的に展開している。また、震災展示・交流スペース「つなぐ館」「南浜つなぐ館」を設置・運営しており、2021年3月には「MEET門脇」を新設し、周辺の復興祈念公園や震災遺構と組織の枠を超えた相乗効果をもたらす教育旅行・視察受入れ準備を進めている。

官民連携の工夫や成果に繋がった要因

・震災前に整備された、石巻市、社協、石巻専修大学間の災害協定準備
 →連携調整のための「場所」の存在
・社協/ボランティアセンターの柔軟なNPO受入れ方針
 →連絡会の呼びかけとその後の連携
・災害支援経験豊富なNPOの存在
 →次の課題を見据えたノウハウやアドバイスの提供
・地元ボランティアの事務局参画
 →地元の主体性醸成、地元の情報やネットワークを活かした調整
・個別の団体では対応しきれない大規模災害
 →情報共有・連携なしでは活動が成立しない状況
(災害ボランティアセンターで「対応しきれない」連携のための組織体が必要とされる事例として、インフラ損壊による炊き出し要否は、判断材料の一つと成り得る)

次の災害に向けた反省や失敗事例

 「石巻の復興過程及び緊急支援における中間支援機能ヒアリング検証報告書」において、以下のように整理している。
1)応急期の受益者からの評価と連携の限界
 石巻災害復興支援協議会の登録団体からは高評価であったが、それ以外の団体からは低評価もしくは無回答が多かった。(2012年3月アンケート結果より)これは、東日本大震災のような大規模・広域の災害に対する中間支援の限界を示すと同時に、被災地主体の連携体制に外部支援者が関われておらず、今後も引き続き課題となることが想定される。

次の災害に向けた反省や失敗事例

2)石巻のNPOを巻き込んだ災害廃棄物処理業務詐欺事件
 東日本大震災後のNPO関連の裁判には、NPO法人大雪りばぁねっとによる業務上横領の事例が挙げられるが、特殊車両の寄贈、入浴支援の実施など、石巻災害復興支援協議会で担った業務に共通点があった。石巻災害復興支援協議会においては、代表が地元の建設会社長であったからこそ特殊車両のオペレーションや重機の運用調整、仮設入浴施設の設置などの業務が迅速に行われた面があったが、緊急支援に際して公的な役割を担う組織としては、同一の理事が兼務する組織への「利益相反契約」、一般的に言えば身内から身内に委託するような形をとることで、公益性を欠く結果を招く原因となった。


3)石巻市社会福祉協議会、石巻市との関係構築不足
 石巻での協働事例は「石巻モデル」として雑誌や書籍に紹介されたが、社会福祉協議会は、NPOを上位に置いた図の掲示を不許可とし、社会福祉協議会とNPOの枠組みを超えた新組織の誕生という変化を受け入れ難い土壌もあった。一方で、社会福祉協議会のスタッフとNPOのリーダーの間に信頼関係が培われ、災害時に外部から支援に取り組む団体にも、地元の組織にも、相互の立場や活動を尊重する姿勢が求められる。
 石巻市とは災害対策本部会議や三者会議などでの連携があったものの、関係者から「行政の連絡会への不参加」が失敗事例としてあげられており、全体会、分科会などへの市の通常参加はなかった。熊本地震後の「火の国会議」への内閣府や県の参加などにより、以後の災害でNPO活動への理解が促進され、行政とNPOの関係性も改善していっていると考えられる。


4)中間支援組織の意思決定体制へのNPO組み込み不足
 様々な支援の受け皿としての法人を迅速に設置することが優先されたため、法人化の検討にあたって全体会議に参加していたNPOや、災害ボランティアセンターを担う社会福祉協議会から役員を選任する調整は行われなかったことが、後に大きな課題となった。
 任意のネットワークとして「協議会」を形成していた多くのNPOの意思を法人運営に反映させる仕組みがなく、事務局は別組織となっていた。各支援団体が属するかのような「協議会」という法人名称と、法人としての意思決定に支援団体に参画できない会員制度に乖離があったことが一因であり、東北で中間支援を実施する団体には同様のリスクが見受けられる。
 また、県レベルの中間支援組織が、このような市町村レベルの中間支援組織の危機的状況を随時把握し、支援などの意思決定をしてゆくためには、組織の構成員としての市町村レベルの主体からの参画を得る工夫が必要と言える。

今後の政策等への提言

 「石巻の復興過程及び緊急支援における中間支援機能ヒアリング検証報告書」において、今後想定される大災害に必要な結論として以下のように整理している。
1)良い方向に変化させる「チェンジ・エージェント」機能の必要性
 震災直後や復興過程の中間支援に関する団体・個人に、変化もたらす「チェンジ・エージェント機能」が具現化していたことが確認されたため、今後の災害対応においても、組織・活動の両面において、覚悟や主体性を持って動的に「変化」を促す機能(人材、制度、予算)が求められる。


2)中間支援の対象範囲や支援フェーズの変化に応じた意識的な変革の必要性
 全国、県レベルの中間支援の役割は市町村レベルとは明確に異なり、対象範囲が広いほど抽象度が高く、課題把握や制度への定着が求められていた。また、緊急期においては異なるセクターを受容して変化を促進する役割が重要視されていたが、震災9年目には、課題を可視化して協調的に連携を推進する役割の重要性が示唆されており、中間支援にもフェーズの変化に応じた意識的な変革を促す工夫が必要である。


3)被災地域の各支援団体が構成員として参画可能なガバナンスの必要性
 被災地の課題把握不足や支援団体との連携欠如を招かないよう、被災地から離れた県庁所在地などに中間支援拠点を置く場合は特に、現地の支援団体が会員や理事などの構成員として議決権を持って意思決定に参画し、地域を代表できるような開かれたガバナンスが必要であり、中間支援組織の重要な要件であることが示唆された。


4)新たな中間支援施策と、それを創発する官民協働の場の必要性
 今後の広域災害に備え、災害支援や復興支援の経験共有と、平時の中間支援の資質向上の双方を実現するために、組織の変革を促し得る人材育成制度が必要である。指定管理などの平時のNPO中間支援を第1段階とし、災害ネットワークづくりなど「変化」を促した場合に第2段階の対価を支払う成果連動型委託や、補助や委託の前提として市民側の自発的な参画を必要条件とする制度の可能性も示唆された。現行の中間支援組織や制度への危惧を抱く回答が多く、民間の自主性を支える公的な支援制度の在り方そのものを官民協働で検証し、創発してゆく場が求められる。

<出典>(他の事例集等への掲載)
・3.11みらいサポート「事業内容」
https://311support.com/project/cooperation

・内閣府「平成24年版防災白書 東日本大震災におけるボランティアの取組」(2012年)
http://www.bousai.go.jp/kaigirep/hakusho/h24/bousai2012/html/honbun/1b_2h_4s_02_02.htm

・公益社団法人みらいサポート石巻「石巻におけるNPOの貢献 3.11~東日本大震災から5年~」(2016年4月)
https://311support.com/wp2/wp-content/uploads/2019/04/IFSA5yearsReport.pdf

・石巻の復興過程及び緊急支援における中間支援機能ヒアリング検証報告書
https://311support.com/wp2/wp-content/uploads/2020/08/311NPO_ChangeAgentReportFin.pdf
<活用された制度>
・緊急雇用創出事業臨時特例交付金 「緊急雇用創出」事業(厚生労働省)
・震災復興特別交付税による財政措置 「復興支援員」制度(復興庁、総務省)
・被災者支援総合交付金 被災者支援総合事業「心の復興」事業(復興庁)
・被災者支援総合交付金 被災者支援総合事業「被災者支援コーディネート」事業(復興庁)
<事業費>
第1期 2期 3期 4期 5,公益1期 公益2期 公益3期 公益4期 公益5期 公益6期
事業費(万円) 3,369 8,863 3,604 4,190 4,802 5,435 3,901 4,477 4,978 7,797
復興予算割合 0.0% 57% 61% 69% 58% 40% 63% 55% 53% 37%

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