復興の教訓・ノウハウ集

復興の教訓・ノウハウ集

災害からの復旧・復興過程で生じる課題に対し、東日本大震災における状況とこれに応じた官民の取組事例、専門的知見も踏まえた教訓・ノウハウを記載しています。(令和3年3月公表)

33-1)

災害廃棄物の処理

事例名 太平洋セメント大船渡工場での災害廃棄物の再利用
場所 岩手県大船渡市とその付近の市町(宮古市、山田町、大槌町、陸前高田市)
取組時期 応急期復旧期復興前期復興後期
取組主体 事業主体:太平洋セメント株式会社大船渡工場
その他関係者:太平洋セメント株式会社大船渡工場の関連会社、東北電力株式会社、大船渡市、宮古市、山田町、大槌町、陸前高田市 他

取組概要

 太平洋セメント株式会社大船渡工場は、発災直後から二次仮置き場で選別された不燃物はセメント材料として、可燃物や柱材・角材等は燃料として使用しリサイクル化することで、大船渡市とその近隣の市町の災害廃棄物処理に大きく貢献した。
 同工場では、災害廃棄物のみならず、復興事業で生じた復興関連廃棄物も受入れ処理を実施した。

具体的内容

発災直後の設備復旧やセメント資源化に向けた試行錯誤、それにもとづく災害廃棄物の焼却とセメント資源化

 10mの津波により太平洋セメント株式会社大船渡工場の全設備の約7割が被災し、操業停止となった。発災直後から、大量の災害廃棄物処理や復旧復興用のセメント供給にむけて、大船渡市との協議や当時の社長による工場復旧宣言を行い、設備復旧等に日夜取り組んだ。津波被害が軽微であった5号キルンの設備点検を大至急実施し、東北電力株式会社に電力復旧の協力も受けつつ、6月22日に災害廃棄物焼却をスタートした。セメントキルンによる災害廃棄物の焼却は初めての試みであり、3か月かけて安定焼却を実現した。
 従来の焼却・埋め立てを通じた処理は、処理能力の不足と大量の処理困難物という問題を生み、復興に遅れが生じる恐れがあった。復旧に際してはセメントの供給が不可欠となる中で、同工場は災害廃棄物をセメントの生産に利用した。セメントの原材料である石灰石、珪石、鉄といった天然資源が、下水汚泥、燃え殻といった災害廃棄物の組成と近似していた点、高温による焼成にはダイオキシンが発生しない点から取組が推進された。
 また、災害廃棄物のセメント資源化に向けては、塩分除去用の設備を新たに設置し、品質確保等に取り組んだ。セメント資源化へ移行することで焼却処理時に最終処分場で埋め立てていた残渣は全てセメント製品化された。逐次被災した設備復旧を進め、災害廃棄物は、2014年3月までの約3年間で、岩手県沿岸地区の宮古市、山田町、大槌町、大船渡市、陸前高田市の3市2町からの海上輸送も含めて969千tを受け入れた。これは岩手県内で発生した災害廃棄物総数量の約20%に相当した。可燃性の災害廃棄物を化石エネルギーの代替として活用、その燃え殻をセメントに取り込むことで二次廃棄物を発生させないゼロエミッションを達成し、最終処分場の残余年数を引き延ばした。

発災直後の設備復旧やセメント資源化に向けた試行錯誤、それにもとづく災害廃棄物の焼却とセメント資源化

写真:被災を免れた5号キルン(左)、設置した除塩設備(中)、船による広域受入れ(右)
(出典:太平洋セメント㈱ 大船渡工場)

復興関連廃棄物等の受け入れ

 災害廃棄物処理の終了後、宅地造成などによって発生する土壌や伐根材等(復興関連廃棄物)やその他副産物である石炭灰、廃プラスチックなどを周辺の地方公共団体から受入れ、セメント資源化処理を行った。復興事業から発生する廃棄物を処理しながら、復興資材であるセメントを供給するという両面から復興を支えて、2013年度にはセメント1t当たり最大472kgの災害廃棄物等の処理を行った。

復興関連廃棄物等の受け入れ
復興関連廃棄物等の受け入れ

写真:廃プラスチック破砕処理設備(左)、不燃系廃棄物処理設備(右)
(出典:太平洋セメント㈱ 大船渡工場)

復興で得た技術等を活かした広域的な廃棄物処理

 復興関連廃棄物の受入れ量は復興事業の進行、完成に伴い減少することが見込まれた。そんな中、環境省が、国、地方公共団体、事業者の連携により災害対応力向上につなげることを目的とする「災害廃棄物処理支援ネットワーク(D.Waste-Net)」を発足し、太平洋セメント株式会社もその民間事業者グループに参画した。震災後に経験した大量の災害廃棄物を処理した工場設備と技術、また工場と専用の港が隣接している立地を活用することで、東北地区だけでなく、さらに広域からの災害廃棄物・その他廃棄物の収集、処理の拡大も進めた(関東圏の廃棄物や熊本地震の廃棄物等処理を受け入れた)。

<出典>(他の事例集等への掲載)
・一般社団法人セメント協会「太平洋セメント㈱ 大船渡工場」月刊セメント・コンクリート(2016年7月)p3-7
http://www.jcassoc.or.jp/cement/4pdf/jg3_05.pdf

・太平洋セメント株式会社「TAIHEIYO CEMENT CSR REPORT 2017」(2017年9月)p16-19
https://www.taiheiyo-cement.co.jp/csr/pdf/csrrpt2017.pdf

・川辺孝治「大船渡工場の震災復旧と災害廃棄物処理」コンクリート工学,Vol.50,No.1(2012年)p91-93
https://www.jstage.jst.go.jp/article/coj/50/1/50_91/_pdf/-char/ja

・三浦啓一「セメント産業における廃棄物・副産物の有効利用と災害廃棄物の受け入れについて」(2016年11月)
https://www.env.go.jp/press/y030-16/mat01_3.pdf

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