おわりに
東日本大震災は、東北地方を中心に、広範囲にわたる甚大な地震・津波被害を発生させ、東京電力福島第一原子力発電所の事故を併発するなど過去に経験のない複合災害として、多くの人命を失わせ、地域の生活の場を破壊しただけでなく、我が国の経済・産業にも深刻な影響を与えたが、日本政府はもとより、被災地の地方公共団体や住民の絶え間ない努力により、地震・津波被災地域の復興は着実に進み、復興政策がその役割を全うできるよう、「総仕上げ」の段階に入っている。
他方、第2期復興・創生期間にある現在、引き続き、心のケアや水産加工業の売上げ回復等などの課題が残されているほか、原子力災害被災地域については、本格的な復興・再生が始まったところであり、今後も中長期的な対応が必要である。創造的復興の中核拠点となる福島国際研究教育機構の設立、特定復興再生拠点区域の整備、同拠点区域外への帰還・居住に向けた取組など、新たな課題や多様なニーズに対応しつつ、本格的な復興・再生に向けて、政府として全力を挙げて取り組むこととしている。
本書のとりまとめに当たっては、多くの方のご協力をいただいた。
「復興政策 10 年間の振り返りに関する有識者会議」の構成員である有識者には、多忙の中、全4回の会議に出席いただくとともに、これまでの経験や見識に基づく、大所高所の貴重な意見をいただいた。第2~4回会議においては、被災3県、3市町村の首長、民間企業・団体からも意見発表をいただき、現場の立場から、あるいは、行政とは異なる立場からの率直な意見をいただいた。また、沿岸 42 市町村においては、第3回会議の前に、アンケート調査に協力いただいた。
このほかにも、五百旗頭眞氏、御厨貴氏、飯尾潤氏を始めとする復興構想会議、復興推進委員会、東日本大震災の復興施策の総括に関するワーキンググループの構成員であった有識者には、個別のヒアリングに応じていただき、当時の経緯や、貴重な意見をいただいた。また、復興庁事務次官経験者など過去の行政職員にも、過去の経緯や盛り込むべき教訓等について、多くの情報提供・示唆をいただいた。
関係省庁・関係機関や復興庁内の職員においては、業務の傍ら、古い資料の捜索・提供のほか、大部に渡る本書を数次にわたり確認するなど、多くの労力をかけたが、快く協力していただいた。
また、調査委託業務の中で、三菱総合研究所には、様々な資料作成や本書の執筆作業の補助をいただいた。
加えて、行政機関の公式文書のほか、当時の関係者が書き残した様々な論考・寄稿には、詳細な当時の経緯や背景事情など、多くの情報を補完してもらった。
ご協力いただいた全ての方に、ここに改めて、感謝の意を表したい。
震災による大きな犠牲の下に得られた貴重な教訓を風化させることなく、後世に継承し、災害に強い国づくりを進めていくことは、我々の責務である。東日本大震災の復興政策の振り返りは、本書で終わるものではない。復興庁が現在も存続し、復興政策が未だ継続していることに加え、時を経ることによって、当初 10 年間に講じた復興政策についても、また異なる評価がなされることがあるだろう。さらに、本書が公開されることを契機に、掲載しきれていなかった事実関係や意見が新たに外部から指摘されることもあり得るだろう。現在ですら、既に記録の散逸や記憶の風化が進み、資料収集や事実確認に苦労した場面もあった。こうしたことを踏まえると、今後も、適宜のタイミングで、こうした振り返りの作業を行っておくことが望ましいと考えられる。本書は、公式文書を主たる情報源としてとりまとめたものであるが、これまで復興政策に携わってきた関係者それぞれの経験・記憶の中にも、本書のような文書には馴染まないものの、後世にとっては貴重な資料となるものがあるだろう。時の経過に伴い、こうした様々な資料の収集も行われ、より充実した振り返りがなされていくことを期待したい。
最後に、本書が、将来の大規模災害からの復興に向けた教訓として、広く防災力の強化の一助となることを期待する。
令和5年8月 復興庁