復興政策10年間の振り返り

復興政策10年間の振り返り

6章
産業・生業の再生

5節 観光業

1.概要

(1) 集中復興期間の主な取組

 平成23~24年度にかけては、広域連携観光復興対策事業により、東北地域全体を一種の博覧会場と見立てた「東北観光博」を開催し、官民を挙げた一体的な取組みを実施した。
 平成24~25年度にかけては、東北地域における旅行需要創出事業により、デスティネーションとしての東北地域太平洋沿岸エリアの認知度向上及び福島県への旅行需要喚起のため、積極的な広報展開、イベント等の活用、ウェブ等を活用した情報発信、人的・物的交流の促進に資する継続性のある地域主体の取組を支援した。
 平成25~27年度にかけては、東北地域観光復興対策事業により、東北地域の太平洋沿岸エリアにおいて、地域ごとの復興プロセスに応じた滞在交流促進のための体制づくりや取組を段階的に実施するとともに、地域における滞在プログラムの造成等を支援した。また、福島県における観光関連復興支援事業により、福島県が実施する風評被害対策及び震災復興に資する観光関連事業を支援した。

(2) 復興・創生期間の主な取組

 東北観光は風評被害の影響により、全国的なインバウンド急増の流れから大きく遅れていた。そのため、平成28年を「東北観光復興元年」として、東北観光復興対策交付金の創設など観光復興関連予算を大幅に増額し取組を強化することとした。内閣総理大臣からは「2020年に東北6県の外国人延べ宿泊者数を150万人泊とする」という目標が示された(平成28年3月10日)。
 また、復興大臣の委任に基づき、平成28年1月22日に「東北観光アドバイザー会議」を設置。平成28年4月15日に提言が復興大臣へ提出され、観光復興関連予算を戦略的かつ効果的に活用し、官民が連携して取組を進めていくため、今後の観光復興の方向性が示された。
 具体的な事業としては、東北観光復興対策交付金、東北観光復興プロモーション、福島県における観光関連復興支援事業、「新しい東北」交流拡大モデル事業などの支援策を講じ、東北の観光復興の加速化に向けて、東北地域が主体となって多言語ホームページの整備、滞在プログラムの開発等の取組を行うとともに、官民が一体となったトップセールスや集中的な訪日プロモーションの実施によって、国際定期便の新規就航やチャーター便の増加、訪日外国人旅行者の誘客に繋がった。
 その結果、令和元年の東北6県の外国人延べ宿泊者数は震災前の約3倍である約168万人泊となり、「2020年に東北6県の外国人延べ宿泊者数を150万人泊とする」という目標値を上回った。
 更に、令和元年度には、令和2年のお勧めの旅行先として、『ロンリープラネット』の「Best in Travel 2020」や『ナショナルジオグラフィック』の「Best Trips」に東北が選出された他、『ガーディアン』紙の「2020年に訪れるべき20の場所」において福島県が選出されるなど、海外主要メディアにおいても東北や福島県が旅行先として高く評価された。
 なお、復興・創生期間最終年度となる令和2年の外国人延べ宿泊者数は、新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、被災地を含め全国的に落ち込んでいる。

図表 6-5-1 外国人延べ宿泊者数の推移
図表 6-5-1 外国人延べ宿泊者数の推移
出所)データ=観光庁「宿泊旅行統計調査」
注:従業者10人以上の施設に限る。

2.東北6県の外国人延べ宿泊者数の増加に向けた取組

(1) 取組の概要

 「2020年に東北6県の外国人延べ宿泊者数を150万人泊とする」という目標の実現に向け、東北地方の風評被害を払拭し、東日本大震災の影響により大きく落ち込んだ訪日外国人旅行者を回復させるために、東北地方の地方公共団体が実施する訪日外国人旅行者を呼び込むための取組を支援する「東北観光復興対策交付金」を平成28年度に新設し、令和2年度まで継続して支援した。
 交付対象事業については、東北地方の各地方公共団体が策定する東日本大震災からの観光復興の取組に関する計画(観光復興対策実施計画)に基づき実施する事業等とし、観光復興促進調査事業、地域取組体制構築事業、プロモーション強化事業、受入環境整備事業、滞在コンテンツ充実・強化事業など、幅広い支援メニューを設定した。

(2) 主な取組事例

 平成28年度の支援事業では、海外での商談会や海外旅行エージェントの招請などのプロモーション強化事業や、交通拠点の多言語化などの受入環境整備事業のほか幅広いメニューを設定しており、観光復興に向けた取組を行った。
 平成29年度の支援事業では、北太平洋沿岸に点在する地域資源を訪日外国人旅行者の視点で再編し、広域語り部ガイドの育成や多言語ツールの整備、教育旅行の受入態勢整備を進め、訪日外国人旅行者の東北地方への誘客及び域内での周遊促進を図った。
 平成30年度の支援事業では、東北の魅力である四季のPR動画を活用し、米国、中国等対象12市場に対し、各市場の特性を合わせた東北の秋や冬の観光コンテンツの動画広告を実施するなど、更なる東北の認知度向上を図ることにより、来訪需要を喚起し、特設サイトへの誘導を行うなど誘客の動機付けに繋げた。更に冬の観光コンテンツ造成を図り、東北ならではの祭り、食等の伝統文化とスノーアクティビティを組み合わせた着地型旅行商品造成等に取り組んだほか、Wi-Fiの整備、多言語表示の整備、キャッシュレス対応といった外国人の受入環境整備を図った。
 令和元年度の支援事業では、ラグビーワールドカップ2019日本大会の開催により、多くの旅行者が日本を訪れ、今後も、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会といった国際的なイベント開催が続き、多くの訪日外国人旅行者が見込まれることから、これを契機にインフルエンサー、海外メディア、旅行会社の招請により幅広い層に対して効果的に情報発信を行った。また、依然風評被害が残る太平洋沿岸地域については観光復興に向け、教育旅行関係者を招請し沿岸の復興ツーリズムを通じた情報発信や、メディアの招請による安全情報の発信など、地域の現状について正確に発信することにより東北への誘客促進を図った。
 令和2年度の支援事業では、東北地方におけるインバウンド観光については、東日本大震災から10年という節目の年を迎え、新型コロナウイルス感染症収束後の誘客に向けて、滞在日数や観光消費額の拡大を促進するために、東北に行く価値があると訪日富裕層に思わせるためのキラーコンテンツの造成に向けたワークショップの開催、造成した体験プログラムに対して欧米富裕層を扱う旅行会社に視察してもらうFAMトリップの実施等により、富裕層向け旅行商品造成につなげた。また、東北観光復興対策交付金最終年度の総仕上げとして、前年度から同交付金で造成してきた旅行商品の海外OTAサイトへの掲載支援及び販促支援を実施したほか、ビッグデータを活用してウェブプロモーションを行うことにより、更なる東北への誘客の促進を図った。

図表 6-5-2 東北6県連携による「デジタルコンテンツプロモーション事業」
図表 6-5-2 東北6県連携による「デジタルコンテンツプロモーション事業」
出所)観光庁「平成29年版 観光白書」

3.海外に向けた東北観光復興プロモーションの実施

(1) 取組の概要

 日本政府観光局(JNTO)では、平成28年度から令和2年度にかけて、東北に特化した海外主要市場向けのデスティネーション・キャンペーンとして、東北運輸局・東北観光推進機構・東北の地方公共団体及び観光関係者と連携し、JNTOによる東北観光復興プロモーションを実施した。知名度向上、メディアや旅行会社の招請、送客促進を柱とした集中的な訪日プロモーションにより、東北の魅力を強力に発信した。

(2) 主な取組事例

 知名度向上の事業では、風評被害の払拭のため、韓国等の著名人を活用して、東北の魅力を「グルメ、自然景観、現地体験」の視点から訴求する動画を制作する等により、SNS等で情報発信を実施した。また、著名人を起用した映像制作等によるBBCワールドニュース等での放送やCNN等でのTVCM及びウェブサイトでの映像配信、デジタル広告等により、欧米豪やアジア各国を対象に認知度向上を図った。
 招請事業では、東南アジア6市場(タイ、シンガポール、フィリピン、インドネシア、マレーシア、ベトナム)から1組ずつ有名アーティストを招請し、東北各県の観光魅力の詰まったミュージックビデオを撮影し、東南アジア市場向けに情報発信を行う強い影響力を持つインフルエンサーの招請、海外の有力紙や雑誌等の記者を招請して主要メディアにおける記事掲載による情報発信を行うといったメディアの招請、訪日旅行の販売に力を入れている海外旅行会社を招請しツアー造成を促進するといった旅行会社の招請等の取組を行った。
 送客促進の事業では、東北6県内の空港を利用する新規就航及びチャーター便等の航空座席、旅行商品の販売促進に資する共同広告を航空会社、旅行会社と連携して実施した。また、海外の有力なオンライン旅行会社等と連携し、特設ウェブページの制作や販促キャンペーン等を実施した。
 その他、東北地域と連携して、東日本大震災からの復旧・復興に際して多くのご支援をいただいた台湾に感謝の意を表すイベント(名称:日本東北遊楽日)を台湾の一般消費者向けに現地において複数年にわたって開催した。また、東北の官民によるトップセールスと連携した一般消費者向けイベントをタイにおいて開催し、東北の自治体・民間団体による魅力発信及びタイ現地旅行会社・航空会社による東北関連旅行商品の販売を行うことで、認知度向上及び東北への送客を促進した。

図表 6-5-3 (山形・出羽三山)英国人ジャーナリストを福島・山形へ招請し、
精神文化体験をテーマとした映像を制作
図表 6-5-3 (山形・出羽三山)英国人ジャーナリストを福島・山形へ招請し、精神文化体験をテーマとした映像を制作
出所)JNTO「平成30年度JNTO事業紹介」

4.福島における観光復興の促進

(1) 取組の概要

 福島県は、東日本大震災によって沿岸部を中心に多大な物的被害を被っただけでなく、原発事故に伴う風評被害によって観光関連産業は甚大な被害を被っており、特に、同県における教育旅行の延べ宿泊者数は震災後約2割まで減少するなど影響が大きかった。そのため、福島県ならではの教育旅行プログラムの充実化を図り、県外に向けた強力な情報発信を継続して行っていくことで、福島の現状や教育旅行先としての魅力を全国の教育旅行関係者へ広くPRしていくこととした。また、こうした取組を支える予算事業として、平成25年度には、福島県が実施する風評被害対策及び震災復興に資する観光関連事業に対して補助を行う「福島県における観光関連復興支援事業」を新設した。これは、教育旅行の支援を含めて、同県が策定した福島県観光関連復興事業実施計画に基づいて実施する滞在コンテンツの充実・強化、受入環境の整備、プロモーションの強化、観光復興促進のための調査を支援し、国内外から福島県への誘客を図るものである。

(2) 主な取組事例

 平成25~27年度にかけての支援事業では、首都圏キャラバンや誘客イベント等による国内プロモーション、海外の旅行会社・メディアの招請や旅行博出展等による海外プロモーション、被災経験を語り継ぐことができる語り部の発掘・養成、教育関係者の招請や教育旅行のモデルコース造成等による教育旅行の推進等の取組を実施した。
 平成28~29年度の支援事業では、DMOや観光素材の発掘・磨き上げに関する専門家の派遣、福島の復興に向け挑戦する「人(団体)」との出会い・語り合いや被災地の視察を通して、福島の「ありのままの姿」に触れる学びのツアーである「復興ツーリズム」の推進といった観光地域づくりの取組を実施した。また、福島県のブランドとなる「日本酒」「花」「温泉」の観光資源を育成・活用し、県内の広域周遊へ誘導する取組等を実施した。
 平成30年度の支援事業では、主要駅を発着地とした観光地を周遊できるバスルートの整備や二次交通に関する観光客向け情報発信の強化を通じた二次交通整備のモデル事業の取組、戊辰戦争150周年をきっかけとして幕末の歴史に興味を持つ層に向けた「武士道」「サムライ」をテーマに戊辰戦争ゆかりの地を周遊させる取組等を実施した。
 令和元年度の支援事業では、福島県外の教育関係者を対象としたモニターツアーを実施し、ホープツーリズムや学びのテーマに応じた福島ならではの教育プログラムの磨き上げを図る取組を行った。また、ナイトタイムエコノミーの成功事例となるモデルコンテンツの造成を図り、旅マエ・旅ナカの情報発信として個人客へPRするとともに、オリパラ公式旅行会社への商品造成を働きかけた他、酒蔵ツーリズム、フラワーツーリズムやサムライツーリズムの取組を行った。
 令和2年度の支援事業では、新型コロナウイルス感染症の影響により、首都圏の学校及びPTAに対するモニターツアーは未実施となったが、オンラインによる誘致キャラバンを実施し、ホープツーリズムのプログラム支援や現地施設等との調整を一元的に行う総合窓口の設置を行うなど、旅行会社等への教育旅行の誘致の働きかけを行う取組を支援した。また、常磐線の全線開通を契機とした新たなコンテンツの掘起こしによる商品造成により浜通りへの誘客を促進するとともに、県内各地域が連携して合宿誘致に取り組む受入環境の整備を実施した。
 こうした取組等を通じて、福島県の観光入込数(令和元年)は、県内における地域差はあるものの、震災前(平成22年)の水準並みに回復した。その中でも、同県の外国人延べ宿泊者数(令和元年)は、震災前と比べると205.1%まで増加した。ただし、全国の増加率(389.3%)と比べると低い状況がある。また、同県の教育旅行入込数(令和元年度)は、県内における地域差はあるものの、震災前(平成22年度)と比べると72.8%まで回復した。

図表 6-5-4 福島県の観光入込客数の推移
図表 6-5-4 福島県の観光入込客数の推移
出所)データ=東北各県の観光入込客統計数値
図表 6-5-5 福島県の外国人延べ宿泊者数の推移
図表 6-5-5 福島県の外国人延べ宿泊者数の推移
出所)データ=観光庁「宿泊旅行統計調査」
注:従業員数10人以上の宿泊施設を対象。
図表 6-5-6 福島県の地域別教育旅行入込数の推移
図表 6-5-6 福島県の地域別教育旅行入込数の推移
出所)データ=福島県教育旅行入込調査報告書

5.「新しい東北」交流拡大モデル事業

(1) 取組の概要

 東北における外国人の交流人口拡大につながる新たなビジネスモデルを民間事業者から公募・選定し、旅行商品の造成・販売等、民間の新たな取組の立上げを支援した。具体的には、下記のような事業を行った。

  1. ① 外国人旅行者をターゲットとした旅行商品を官民共同で造成し、実際に販売することで市場の評価を通した実証等を行う。
  2. ② これらのプログラムの成果や課題を共有する報告会を開催するとともに、国内外のメディアを通じた情報発信を行う。
  3. ③ 過年度事業の成果について、東北等の様々な関係者に活用しやすい形に整理し、国内外への情報発信を行う。

(2) 主な取組事例

 平成28年度には、個人の体験に基づいた情報の発信・拡散を通して風評被害の払拭につなげるため、冬を題材とした東北における統一ブランドの構築や自転車シェアリングの導入等、外国人の交流人口拡大又は受入環境の改善につながる13 のビジネスモデル等を立ち上げ、東北が全国のモデルとなる観光先進地を目指す新たな試みに官民が連携して取り組んだ。
 平成29年度には、計37件の提案の中から、東北各地の酒蔵訪問を組み込んだ訪日外国人旅行者向けの旅行商品の開発、東北における周遊観光の促進に向けたバス路線の活用等、外国人交流人口の拡大につながる11の提案を選定し、民間の新たなビジネスモデルの立上げを支援した。
 平成30年度には、民間企業の提案の中から、東北への外国人の交流人口の拡大につながる9の提案を広域型モデル事業として選定し、また、各復興局主導の地域型モデル事業として、岩手復興局で2、宮城復興局で3、福島復興局で2の提案をそれぞれ選定し、旅行商品の開発等の官民連携したビジネスモデルの立ち上げに取り組んだ。
 令和元年度には、民間企業の提案の中から、東北への外国人の交流人口の拡大につながる8の提案を普及・展開型モデル事業として、また、岩手復興局で2、宮城復興局で2、福島復興局で3の提案を各復興局主導の地域型モデル事業としてそれぞれ選定し、官民連携でインバウンド向けの旅行商品(プログラム)開発等・販売までを見据えたビジネスモデルの立上げに取り組んだ。
 令和2年度には、民間企業の提案の中から、東北の外国人の交流人口の拡大につながる7つの提案をモデル事業として選定し、官民連携でインバウンド向けの商品造成・販売のノウハウの地域への更なる定着・展開と、東北内の事業者が自走する体制づくりを見据えたビジネスモデルの立上げに取り組んだ。
 こうした取組を通じて、平成28~令和2年度の5年間で62事業を採択し、計1,063本の旅行商品を造成した。なお、平成28~30年度の事業においては、事業に参画する東北の地元事業者が限られていたことから、令和元年度以降の事業においては、地域の事業者に成功体験・ノウハウを蓄積させ、地域内でインバウンド商品を作り上げる体制を構築できるよう、地域内事業者を中心としたプロジェクトチームの活動を支援するようにした。
 また、5年間の事業実施により得られた成果については、東北観光推進機構の「旅東北」ウェブサイトへの掲載、セールスブックの制作、「ビジネスモデル整理・発信BOOK」の制作を通して情報発信を行った。

図表 6-5-7 全62事業のターゲット市場
図表 6-5-7 全62事業のターゲット市場
出所)復興庁「ビジネスモデル整理・発信BOOK 平成28年度~令和2年度「新しい東北」交流拡大モデル事業」令和3年3月
https://www.reconstruction.go.jp/topics/main-cat1/sub-cat1-19/20210401_businessmodelbook.pdf (令和5年7月28日閲覧)
図表 6-5-8 全62事業が取り組んだジャンル
図表 6-5-8 全62事業が取り組んだジャンル
出所)復興庁「ビジネスモデル整理・発信BOOK 平成28年度~令和2年度「新しい東北」交流拡大モデル事業」令和3年3月
https://www.reconstruction.go.jp/topics/main-cat1/sub-cat1-19/20210401_businessmodelbook.pdf (令和5年7月28日閲覧)

10年間の振り返りトップに戻る