岩手・宮城・福島の産業復興事例集30 2019-2020 東日本大震災から9年~持続可能な未来のために
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タントと知り合った関係で、代表を打診されたのです」。新規事業立ち上げには数多く関わってきたが、会社経営の経験はゼロ。最初は分からないことだらけだったと笑う。それでも引き受けたからにはと、会社登記をはじめ、設立に関する書類の作成や提出は専門家に頼らず、すべて自分一人で行ったという。工場では、全4室の栽培室の2室に蛍光灯、もう2室にLED照明が設置され、当初は24時間365日、工場を稼働させる方針だった。しかしいざ栽培を始めると、電気代にコストがかかり過ぎるという問題に直面する。野菜を作れば作るほど赤字になる現状が浮き彫りになった。「月600万円の電気代に人件費を加えると、毎月1,000万円の支出がある。安定した売り上げもまだ確保できていなかったので、このままでは1年も会社が持たないと思った時期もありましたね」。設立間もなくして大問題に直面した早川氏は、大胆なコスト削減に乗り出す。まず、稼働させる栽培室を1室半だけにした。かつ、栽培の精度にやや不安があった育苗室の使用は中止を決める。売り上げを伸ばすために販売戦略も変えた。KiMiDoRiの野菜は露地栽培よりも手間が掛かりコストも高くなるため、価格競争には向かない。その一方で、無農薬のため洗わずに食べられて、日持ちも良く、えぐ味も少ないという長所がある。ある客は「うちの孫もKiMiDoRiのレタスだけは食べられる」と教えてくれた。そこで早川氏は、野菜の品質と値段を理解してくれる相手だけに販売する姿勢へのシフトを決断。生産数も売れる数だけに抑え、余分な野菜を作らない体制を整えた。戦略は実を結び、3期目の2015年には経営が軌道に乗り始める。福島県の震災等緊急雇用対応事業や、電源立地地域対策交付金も助けになった。「大手スーパーに、価格を上げてもらえないなら供給はできないとはっきり言ったこともあります。成果が出たときは少し肩の荷が下りました」。そんな早川氏を助けたのが技術開発部長の兼子まや氏だ。川内村とは無縁だったが、会社設立の際に、卒業を控えていた千葉大学大学院の教授の推薦で入社を決めた。「大学で学んだことをそのまま仕事にできることもあり、KiMiDoRiで働こうと決めました」(兼子氏)。 栽培室に遠隔監視システムを取り入れているものの、兼子氏自身も徹底したコスト削減と価格見直しでV字回復1JGAP一般財団法人日本GAP協会が発行する認証。Japan Good Agricultural Practice(日本の適正農業実践)の略。Jヴィレッジ1997年に完成した日本初のサッカーナショナルトレーニングセンター。福島第一原子力発電所の事故の対応拠点となっていた。東京2020オリンピック聖火リレーの出発地に決定している。LED照明発光ダイオードを利用した照明器具。蛍光灯に比べ消費電力やコストが低く、寿命も長い。植物工場用LED照明器具は高反射率リフレクターを用いるなど、栽培に適した機能を装備する。福島24328

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