被災地の元気企業 40
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挑戦事例 農林漁業、新地町 福島県の沿岸地域北部にある新地町に、トマト栽培のスペシャリスト集団である新地アグリグリーンの農場がある。新地アグリグリーンが所有する約6ヘクタールの太陽光利用型の植物工場では、トマトが溶液栽培により年間を通じて生産され、収穫ピーク期である夏場には、60名を越える従業員が収穫作業を行う。また、生産したトマトの多くは、市場を通さずに、大手小売業者や大手食品加工会社との直接契約によって、安定的な価格で販売されている。 新地アグリグリーンの設立は2011年2月である。前株主から現株主に事業が売却され、新たな社名で事業を開始した直後に東日本大震災が発生した。震災によって、施設面積の4分の1にあたる1.5ヘクタールの栽培ハウスが倒壊するとともに、原発による風評被害のリスクにさらされることとなった。風評被害のリスクに関しては、直接契約をしている大手小売業者や大手食品加工会社が自ら放射線量調査を実施することで安全を確認し取引を継続してくれた。また、倒壊せずに残ったハウスで収穫時期や品質等の面で効率化を図った結果、直近期の売上高は2.8億円まで回復、震災前に計上されていた売上高3億円に迫っている。 なお、倒壊した植物工場は、公的助成と金融機関の借入を原資に2014年夏に再建され、この秋からトマト栽培が再開され、今期は再建された栽培ハウスと高糖度ミニトマト(後述)の収量増大により、売上高3.8億円を見込んでいる。震災後から現在までを振り返り「周囲の方々の支援に助けられ、よくここまで復旧できた」と代表取締役の赤坂氏はしみじみと語る。 現在、赤坂氏の目標は、復旧から復興へとシフトしている。新地アグリグリーンは「サンゴ砂礫農法」という新農法による高糖度ミニトマトの大規模栽培に挑戦中であり、農業をより魅力的な産業へ変えようと試みている。日本のトマト農業の新たな形が、福島県新地町から発信されようとしているのだ。 高糖度ミニトマトの 大規模生産システムの確立 新地アグリグリーンが取り組んでいるサンゴ砂礫農法による高糖度ミニトマトの栽培は、復興庁と経済産業省による2013年度の中小企業経営支援等対策費補助金「先端農業産業化システム実証事業」に採択され、同社のほか、明治大学、清水建設㈱、㈱ヨークベニマルの4者が連携して、高糖度ミニトマトの大規模生産システムを確立しブランド構築を目指すものだ。 サンゴ砂礫農法とは、土壌を使用せず、化石化した天然のサンゴ砂と苦土石灰、ケイ砂からなる天然混合培地を用いて栽培する方法で、明治大学が特許を有している。土壌を使用しないため、害虫や病原菌の発生率を大幅に減少できるとともに、培地の洗浄が容易なため連作障害の防止に繋がり、収量がアップできるメリッl トがある。 また、トマト栽培で最も重要なことは、与える水の管理であるが、サンゴ砂礫農法では配合比率で含水率が調整可能なため、平均糖度が9度以上という高糖度で付加価値の高いトマトが生産できる。 このサンゴ砂礫農法にかねてより興味を持っていた清水建設は、被災地の中でトマト栽培が盛んな新地町に注目、新地町役場に実証栽培を実施してくれる事業者はいないか問い合わせたところ、町役場は大規模トマト栽培を行っている新地アグリグリーンを紹介したことで今回の事業がスタートしている。 新地アグリグリーンは植物工場に隣接して、約30アールの太陽光利用型植物工場を整備し、サンゴ砂礫農法により実証栽培した高糖度トマトを2014年2月から福島県内のヨークベニマルでテスト販売を開始した。 農業をより魅力的な 産業にしたい 新地アグリグリーンの挑戦 サンゴ砂礫農法の導入でトマト栽培の高収益化を目指す 代表取締役 赤坂 保信 氏 株式会社新地アグリグリーン ビジョン ● 「アッ!美味しい」この言葉が自然に出るトマトをお届けする ● 「あの会社に入りたい」と言われる会社になる ● 地域社会に貢献し安心して働ける企業を目指す 取り組み(事業内容) 90

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