被災地の元気企業 40
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課題克服のポイント 助成金を利用して法人を設立し、 体験プログラムを拡大 遊雲の里ファームで震災後の2011年6月から農業体験プログラムを企画運営していた菅野氏。体験プログラムを通じて、福島県内外に対し福島の現状が正しく情報発信されていないことが風評被害の原因ということに気がついた。体験プログラムの参加者から「知らなかったけど、福島の野菜は安全なんですね」という声が多く聞かれたからだ。体験プログラムの参加者からの声を多く聞くにつれて、実際に見に来てもらわないと福島の現状は理解してもらえない、より多くの人に農業プログラムを体験してほしいとの思いが募っていった。 そこで、菅野氏は2013年3月に内閣府の復興支援型地域社会雇用創造事業(社会的企業支援基金)の助成金を利用して、きぼうのたねカンパニーを設立した。これは、個人事業より法人組織のほうが旅行会社等との連携を容易に進めることができ、その結果より多くの人に体験プログラムに参加してもらえると考えたからだ。 社名は、「困難な状況に立たされてもそれでも、種をまき続ける・・・その先に、希望がある。『きぼうのたね』をまき続けることが福島の復興につながっていく」との想いから名付けられた。 大学との連携により福島の安全性を発信 震災後は多方面から支援の申し出があったが、菅野氏は、新潟大学農学部と震災直後に連携して東和地区の全ての水田の空間線量を測定した。「福島の農作物は危険だ」という風評を払拭するには、客観的な数値を示すことが不可欠であったからだ。自らも遊雲の里ファームの水田の一部を検査用に提供することで、地元住民の取りまとめ役となった。また、地元NPO法人とも協力して農作物の全量検査を実施することにより、地道に安全・安心を確認してきた。 震災直後は風評被害により作付けを見送った農家もあったが、菅野氏の地道な活動の成果もあり、安全性が明らかになるにつれて作付けを行う農家も増えてきている。 今後の課題と挑戦 【名 称】 きぼうのたねカンパニー株式会社 【住 所】 福島県二本松市太田字布沢282 【代表者】 代表取締役 菅野 瑞穂 【 H P 】 http://kibounotane.jp/ 【 E-mail 】 m-sugeno@kibounotane.jp ビジネスとして成り立つ農業を確立する 農業体験プログラムの参加希望者は回を追うごとに増加している。震災後は復興支援目的での参加者がほとんどであったが、最近では農業体験そのものを目的とする参加者が増えてきた。講演会やイベントなどに積極的に参加し、風評被害の克服に向けて情報発信を続けてきた菅野氏の地道な活動が広まっている表れであろう。 一方で、菅野氏が持っている農業をビジネスとして展開するという目標の実現においては、ほとんどの農家が低い収益性の中で農業に従事しているという大きな課題が残されている。そのため、現在、有機栽培による農産物の付加価値の向上や農産物を加工した新たな商品開発による収益力の向上を目指しており、農業がビジネスとして成り立つような仕組みを模索中である。 農業をきっかけに地域を活性化したい 「東和地区に移住して農業に従事したいと考える若者が現れることが目標です」と菅野氏は笑顔いっぱいに答えた。まずは、自らが先駆者となり農業を志す若者の手本となる。そして、収益力向上によりビジネスとしての農業が実現すれば、地域に若い農業生産者が増える。農業従事者が増えれば、体験プログラムを目的に東和地区に多くの人がやって来る。地域ぐるみで東和地区の有機農業の知名度を上げ、新たなファンを生み出す。その結果として地域が活性化する。このような、好循環が生まれるのには時間がかかるかもしれない。 しかし、いつかくる「きぼうのたねが芽吹く日」を心待ちにしながら、菅野氏はこれからも地道に活動を続けて行く。 (すげの みずほ) 89

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