被災地の元気企業 40
80/126

挑戦事例 農林漁業、花巻市 取り組み(事業内容) 生産者の生き様を届ける食材付き 月刊情報誌「東北食べる通信」 「東北食べる通信」は食をテーマにした定期購読の食べる雑誌である。具体的には、雑誌のメインは東北の生産者の特集記事であり、その生産者が作った食材を付録として毎月読者に発送するサービスである。2013年7月号を創刊号として始まり、現在の読者は1400人にまでなった。読者は生産者がどのような思いで食べ物を作り、どんな人柄でどんな人生を歩んできたのかを知ることになる。これは食を生み出す英雄の物語である。 「食べる」という価値を見直す 2014年度「グッドデザイン金賞」受賞 世なおしは、食なおし ビジョン ● 世なおしは、食なおし ● 生産者の地位向上 ● 生産者と分断された消費社会の変革 代表理事 高橋 博之 氏 特定非営利活動法人東北開墾 食に対する価値観および生産者と消費者の関係を見直す 東北食べる通信の挑戦 日本の漁村農村の衰退は深刻である。一次産業就業者の減少と高齢化。多くは限界集落の危機にある。一方、「都市の消費者も命の実感が乏しく疲労感が漂う。巨大な流通システムは互いを分断し無味乾燥な孤立した消費社会を作った」 特定非営利活動法人東北開墾の代表を務める高橋氏のこの問題意識は共感を呼び挑戦へとかきたてる。都市と地方をかき混ぜ、新しい共通の価値観で結び合う新しいコミュニティを作る挑戦だ。 高橋氏は2013年5月に東北開墾を設立。分断された生産者と消費者を情報でつなぐことで、生産者の地位向上、そして漁村農村の活力を取り戻すことを目指している。高橋氏は「生産者の具体的な顔が見えないから、消費者は他人事のように漁村農村が疲労している現状に興味がない」と話す。高橋氏が目指す新しい生産者と消費者の関係とは、消費者が食に主体的に参画することである。海や土からつくられる食が食卓へ届くまでのプロセスを共有し、生産者の思いや哲学に触れ、様々なかたちで参画していくキッカケを「東北食べる通信」は提供している。高橋氏は「食べる人と作る人が一緒になって新しいふるさとを創造するプラットフォームを築きたい」とビジョンを語る。 普通の商品は届いて消費された時点で価値が無くなる。これに対し食べる通信の革命的な点は、食べ終わった時点から価値がさらに広がることであると高橋氏は考えている。生産者と消費者は雑誌やWEBを通じた交流だけでなく、実際に食事を共にしたり、生産者の現場を消費者が体験したりすることもある。消費者は一連のコミュニケーションで自分の命を支えている食べ物に触れて生産者がどういう手間をかけているか深く知り共感する。 こんなエピソードがある。2013年10月号で特集された秋田の米農家が大雨続きで稲刈り機が使えず、収穫ができない苦境に立たされた。この苦境を救ったのがWEBで実情を知った全国の読者である。読者が秋田の田んぼに集まり、一緒に手作業での収穫を手伝ったのだ。生産者と消費者が共通の価値観でつながった瞬間である。 78

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です